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代表訴訟は、株主の懐を潤さない。それでも会社を変えてきた――「株主オンブズマン」30年の実績

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前回、日本の個人株主に残された唯一の武器は株主代表訴訟だと書いた。その武器は、実際にはどう使われてきたのか

前回の記事で私たちは、日本には米国型のクラスアクションがなく、有価証券報告書の虚偽記載で損をした個人株主が集団的に救済される制度は存在しないと指摘した。残された手段は、弁護士が原告を募って組む共同訴訟か、選定当事者制度、あるいは株主代表訴訟しかない。ただし代表訴訟は会社に賠償させる制度であり、勝っても株主自身の懐には一円も入らない。

では、その代表訴訟という"武器"は、実際には何を変えてきたのか。1996年に大阪で結成された市民株主グループ「株主オンブズマン」の30年近い活動は、この問いに対する一つの答えを示している。

市民株主グループの輪郭

株主オンブズマンは1996年、関西大学教授の森岡孝二と、弁護士の阪口徳雄・松丸正らが設立した市民株主グループである。有限会社として発足し、のちにNPO法人化した。弁護士、公認会計士、学者、個人株主で構成され、企業の株式を少数保有したうえで株主の権利を行使することを活動の柱に据えた。

2010年、訴訟部門は一般社団法人「株主の権利弁護団」に引き継がれる。株主オンブズマン自体は、森岡の死去後の2019年に解散手続きに入った。だが訴訟という手段を通じて企業統治に働きかけるという活動の型は、後継団体に受け継がれている。

ソニーへの毎年の提案――可決されなくても、圧力にはなる

株主オンブズマンは2002年から毎年、ソニーの株主総会に「上位5人の役員報酬の個別開示」を求める株主提案を出し続けた。賛成率は2002年の27.2%から2007年の44.3%まで、年を追うごとに上昇した。会社側は一貫して反対し、可決に至ることはなかった。

可決されない提案に意味はあるのか、という疑問は当然出るだろう。だが同じ2002年、株主オンブズマンは雪印乳業にも「安全担当社外取締役」を置く定款変更を提案しており、こちらは会社が受け入れ、消費者団体代表の日和佐信子氏が社外取締役に就任している。可決されずとも数字を積み上げ続けたソニーの提案と、即座に受け入れられた雪印の提案。この対比は、株主提案という手段が、可決の有無だけでは測れない働き方をすることを示している。

代表訴訟の実績――狙いは総会屋、政治献金、談合

株主オンブズマンの本領は、株主代表訴訟にあった。設立直後から、総会屋への利益供与、違法政治献金、談合という三つの類型を狙って代表訴訟を提起し、その多くを「役員個人が会社に金を払い、再発防止の仕組みを作る」という勝訴的和解に持ち込んでいる。

主な実績は次の通りである。

  • 高島屋(1997年)役員9人の連帯支払いと株主総会の公開で和解。

  • 住友商事(2001年)銅取引損失をめぐり、約4億3,000万円で和解。当時の和解額としては最高額だった。

  • 神戸製鋼所(2002年)総会屋への利益供与をめぐり、裁判所が「知らなかったでは済まされない」との所見を付し、コンプライアンス委員会の設置につながった。

  • 三菱自動車(2003年)リコール隠しをめぐり、1億8,000万円の支払いとコンプライアンス基金の設立で和解。

  • 鋼鉄製橋梁談合(2009〜2010年)大林組、日立造船、神戸製鋼、住友金属、三菱重工の5社が連続して和解。合計約8億8,000万円の支払いと、各社での談合防止委員会の設置に至った。

判決で勝ち切った例は、熊谷組の政治献金事件(福井地判2003年、2,861万円、のち高裁で逆転)など多くない。むしろこの団体の特徴は、判決ではなく和解によって、企業に具体的な再発防止の仕組みを作らせてきた点にある。

株主の権利弁護団への継承――同じ型は今も続く

2010年に訴訟部門を引き継いだ株主の権利弁護団のもとでも、同じ型の代表訴訟は続いている。住友電気工業のカルテル事件(2014年、5億2,000万円で和解、代表訴訟和解の史上最高額)、NTNのカルテル事件(2021年、1億4,600万円で和解)は、いずれも総会屋・政治献金・談合という設立以来の三類型のうち、談合系の系譜に連なるものだ。

Capital Justice Labの視点――代表訴訟は、誰のための武器か

前回の記事で指摘した通り、株主代表訴訟は株主自身を金銭的に救済する制度ではない。勝訴的和解によって会社に入るのは損害賠償金であり、原告株主の口座には何も振り込まれない。

それでも、株主オンブズマンとその後継団体が約30年にわたって積み上げてきた実績――総会屋利益供与、政治献金、談合という日本企業のガバナンスの弱点を的確に狙い、判決ではなく和解を通じてコンプライアンス委員会や再発防止委員会を会社に作らせてきた実績――は、この制度が「株主の懐を潤さない」という限界を抱えながらも、企業行動そのものを変える力を持ちうることを示している。

個人株主に残された唯一の回路が、自分の損害を回復する手段ではなく、会社を変える手段でしかないという非対称性。それ自体が、私たちが繰り返し問うてきた資本市場の公正さの欠落である。だが、その非対称な武器を三十年使い続けた市民株主グループがいたという事実は、記録しておく価値がある。


関連URL・参考資料

※前回記事:消費者裁判手続特例法は、なぜ株主を救えないのか|Capital Justice Lab