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エッセイ 勝敗は、設計で決まる

強いチームを作るのに必要なものは何か。 答えは、だいたい現実的で、あまり夢がない。資金力だ。

いい選手は高い。高い選手がいると勝ちやすい。勝つと人気が出る。人気が出ると収入が増える。収入が増えると、またいい選手を買える。この循環は、美しいほど残酷だ。スポーツは平等だと信じたくなるのに、入口の段階で差がついている。

そんな世界で、オークランド・アスレチックスは勝とうとした。 札束では勝てない。なら、勝ち方を変えるしかない。

ビリー・ビーンというGMが選んだのは、「評価軸の作り直し」だった。 打率や見栄えのいい派手さではなく、アウトになりにくい選手を集める。具体的には出塁率を重視する。四球を選べる選手、粘れる選手、長打で効率よく点を取れる選手。 安くて、勝利に貢献できる。いわば、割安な株を拾うように。

それは野球の話でありながら、仕事の話にも聞こえる。目立つ人を取るのではなく、成果を出す仕組みを作る。「それっぽい評価」を捨てて、「勝ちに直結する指標」に寄せる。 言うのは簡単だけれど、やるのは難しい。なぜなら、人は“納得できる物語”を好み、“数字”を嫌うからだ。

ビーンが面白いのは、彼自身が「評価」に翻弄された人だったことだ。 天才と呼ばれ、期待され、でも結果はついてこなかった。 その経験があるからこそ、スカウトの曖昧な言葉—才能、将来性—に頼れなくなった。 未来は当たらない。なら、今ここにあるデータで判断するしかない。 冷たいようでいて、それは彼にとって、現実に負けないための誠実さだったのかもしれない。

2002年、アスレチックスは連勝を重ねた。 資金力の論理から見れば、起きてはいけないことが起きた。弱いはずの側が、勝ち続けた。

もちろん、賛否は割れた。短期決戦では違う、流れがある、伝統がある。しかし、革命がいつも歓迎されるなら、革命という言葉は要らない。

それでも、ひとつだけ確かなものがある。 金に勝てない場所で勝つには、「勝ち方そのもの」を変えるしかない。評価軸を変える。集め方を変える。戦い方を変える。世界を変えるとは、結局、測り方を変えることなのだ。

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文/山中裕

プロフィール 山中 裕(やまなか・ゆたか)

1976年東京都生まれ。HOYA株式会社の前身・保谷硝子創業家の孫。私立武蔵中高を経て、東京大学経済学部を総代卒業。 コロンビア大学大学院(金融工学専攻)修了。 ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス(LSE)などに留学。

2007年以降、HOYAに対する株主提案を通じて、役員報酬開示や社外取締役強化などのガバナンス改革を主導。ISS・Glass Lewisから賛成推奨を獲得し、日本の株主運動の先駆者として評価される。

現在は国内外企業へ投資するアクティビスト投資家。企業統治・株主権保護に取り組んでいる。

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