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外国の巨人の肩の上で(前編)――1,300万件の特許が描く、アメリカの技術革新の「家系図」

経済成長知識の系譜アメリカ経済特許移民因果推論内生的成長理論実証研究論文レビューNBER経済史技術革新操作変数法イノベーションポール・ローマー

アメリカは、世界で最も多くの技術革新を生み出してきた国である。半導体、コンピューター、インターネット、バイオテクノロジー。20世紀以降の主要な技術の多くは、アメリカの企業や大学から世に出た。

だが、それらの技術は、アメリカの中だけで生まれたのだろうか。

2026年10月、この問いに約130年分の特許データで答えようとする研究が公表された。ボストン大学のタレク・ハッサン、セントルイス連邦準備銀行のアーカシュ・カリヤニ、ボストン大学のフアン・クルス・ロペス・デル・バイェの3氏による論文「Foreign Giants' Broad Shoulders: The Causal Effect of Foreign Ideas on U.S. Innovation(外国の巨人たちの広い肩――外国の知識が米国の技術革新に与える因果効果)」である。全米経済研究所(NBER)と欧州の経済政策研究センター(CEPR)のワーキングペーパーとして公開された、査読前の研究である。

題名は、ニュートンが残したとされる「巨人の肩の上に立つ」という言葉に由来する。新しい発見は、先人が積み上げた知識の上に成り立つ。著者らはその「巨人」の多くが、アメリカの外にいたことを、データで示そうとした。

前編では、この研究が何を測り、どのような方法で因果関係を確かめようとしたのかを整理する。後編では、知識を「使いこなす力」の意味、雇用と産業の地理への影響、そして政策と企業経営への含意を検討する。

問い――技術革新は、どこから来るのか

経済成長論において、技術革新の源泉は中心的な問いの一つである。

経済学者ポール・ローマーが1990年に定式化した内生的成長理論は、新しい知識は既存の知識を材料として生み出される、と考えた。知識が知識を生むからこそ、経済は持続的に成長できる。だが、どの知識が、どの新しい知識の材料になったのかを、長い期間にわたって観察することは、これまでほとんどできなかった。

さらに、因果関係の問題がある。外国の技術を多く取り入れた地域で技術革新が盛んだったとしても、それは外国の技術が革新をもたらしたからなのか、もともと研究開発の力が強い地域ほど外国の技術を積極的に取り入れたからなのか、単純な比較では見分けがつかない。

著者らが取り組んだのは、次の三つの問いである。

・アメリカの技術は、実際にどの程度、外国で生まれた技術に依存しているのか

・外国の知識に触れた地域では、それを理由として新技術の誕生が増えるのか

・外国の技術を取り込む力の差は、数十年後の産業や雇用にまで影響するのか

方法①――特許ではなく「技術」を数える

この研究の第一の工夫は、分析の単位にある。

これまでの研究の多くは、特許の件数や引用の数で技術革新を測ってきた。しかし、特許と技術は一対一には対応しない。一つの技術の改良に多くの特許が出されることもあれば、一つの新技術が数千件の特許で使われることもある。特許の件数を数えるだけでは、新しい技術がいくつ生まれたのかは分からない。

そこで著者らは、技術そのものを一つずつ識別するところから始めた。手順は次のとおりである。

・オンライン百科事典ウィキペディアに掲載された技術の項目から、技術を表す語句を抜き出す

・大規模言語モデル(LLM)を用いて、各項目が本当に技術にあたるかを判定する

・米国の特許全文を検索し、それぞれの技術がいつ、どこで使われてきたかを追跡する

対象となった米国特許は約1,300万件、期間は1894年から2024年までの約130年である。識別された技術は19,542種類にのぼる。

方法②――技術の「親子関係」をつくる

第二の工夫は、技術どうしの親子関係の定義である。

著者らは、ある技術が初めて特許に登場してから5年間に出された特許を、その技術の「創設期の特許」とみなした。そして、創設期の特許の1割以上に登場する既存の技術を、その技術の「親」と定めた。新しい技術の黎明期に、繰り返し部品や材料として使われた技術を、その技術の土台とみなすわけである。

一例として、論文はポリ塩化ビニル(PVC)を挙げている。研究のデータでは、PVCは1936年にドイツで生まれた技術と分類され、その後アメリカで、フロッピーディスクなどを含む554種類の「子」技術の土台となった。もちろん、PVCがこれらすべての技術を単独で生み出したという意味ではない。初期の特許の中で、PVCが構成要素として繰り返し使われていた、という関係を示すものである。

こうした関係を数万の技術について計算すると、技術を点、親子関係を矢印とする巨大なネットワークが描ける。ローマーの理論が想定した「知識が知識を生む」過程を、具体的な系譜として目に見える形にしたものといえる。

発見①――外国生まれは7%、外国に依存する技術は56%

この系譜から浮かび上がるのは、少数の外国技術が、多数のアメリカの技術を支えているという構図である。

・19,542種類の技術のうち、外国で生まれたと判定されたのは1,386種類、全体の約7%にとどまる

・一方、少なくとも一つの外国生まれの技術を親に持つアメリカの技術は、56%に達する

・アメリカで生まれた技術の親は平均48種類で、そのうち平均3種類が外国生まれである

数の上では、外国生まれの技術は少数派である。しかし、その少数の技術が、アメリカの技術の過半の土台となっている。

さらに注目されるのは、技術の「生産性」との関係である。多くの技術は、誕生から10年の間に一つも子を生まない。一方で、数十、数百の子を生む技術もある。そして、多くの子を生む技術ほど、外国生まれの親に強く依存していた。

影響力の大きな発明ほど、国境を越えた多様な知識を組み合わせて生まれている可能性がある、ということである。

なお、「外国生まれ」の判定は、米国特許のデータ上で一定の出願の基準を最初に満たした国による。その技術が歴史上、本当に最初に発明された国を特定しているわけではない点には、留意が必要である。

方法③――移民の歴史を「自然の実験」として使う

では、外国の技術を取り込んだことが、本当に新しい技術を生む原因になったのか。ここからが、この研究の計量経済学上の核心である。

著者らが用いたのは、19世紀から20世紀にかけての移民の歴史である。

アメリカには、時代ごとに異なる国から大量の移民が渡ってきた。19世紀半ばにはドイツやアイルランドから、世紀の変わり目には南欧や東欧から、というように、移民の波の主役は入れ替わっていった。同時に、アメリカ国内で移民を引きつけた地域も、鉄道の延伸や産業の発展に伴って時代とともに移り変わった。

ある国から移民が大量に流出した時期に、たまたま移民を引きつけていた地域には、その国にルーツを持つ住民が多く住むことになる。これは、その地域の技術力とは関係なく、移民の送り出し国の事情と、時代ごとの移民の流れの偶然の組み合わせで決まった面が大きい。

著者らは、この偶然を、外国の技術を取り込む度合いを説明する「操作変数」として用いた。送り出し国の事情は対象地域の外で測り、受け入れ地域の引力は別の大陸からの移民で測ることで、特定の国と特定の地域の産業上の結びつきが結果を歪めないよう工夫している。この手法は、ブルハルディ氏らの2019年の研究に基づくものである。

論理の流れは、次のとおりである。

・過去の移民の定住パターンが、地域ごとに異なる国の知識へのつながりを生む

・そのつながりが、その国の技術の地域への吸収を左右する

・吸収された技術が、それを土台にした新しい技術の発明につながる

著者らは、1980年時点で各地域が蓄えていた外国技術の知識と、1980年から2019年までに生まれた新しい技術を対応させた。その際、結果となる新技術を含む特許を、原因側の指標から除いている。同じ特許の中で親技術と新技術が同時に登場するだけで、見かけ上の関係が生じるのを防ぐためである。

発見②――吸収が1%増えると、発明は約1.4%増える

推定の結果は明快であった。

ある国の技術の地域への吸収が1%増えると、その国の技術を親とする新しいアメリカの技術の発明は、約1.4%増える。論文の表4によれば、主要な推定結果は次のとおりである。

・移民の歴史を操作変数として用いた推定:係数1.432(標準誤差0.170)

・単純な回帰(最小二乗法)による推定:係数0.749(標準誤差0.070)

操作変数を用いた推定値は、統計的に1%水準で有意であり、単純な相関から得られる値のおよそ2倍となった。

この差をどう解釈するかには注意が要る。単純な比較が因果効果を過小に見積もっていた可能性もあるが、測定の誤差や、操作変数が捉える変動の性質、地域による効果の違いなども影響しうる。また、この係数は技術の数を対数で表した関係であり、どの企業でも技術の導入を1%増やせば発明が1.4%増える、という意味ではない。

それでも、外国の技術を地域の中に蓄えることが、それを土台にした新しい発明を促すという中心的な結論は、頑健に示されている。

前編のまとめ

アメリカの技術革新は、アメリカだけで完結したものではなかった。外国で生まれた少数の技術が、アメリカの技術の過半の土台となり、その技術を取り込んだ地域ほど、新しい技術を生み出してきた。

技術革新は、一国の天才の孤独な仕事ではない。世界中で蓄えられた知識が、ある場所で組み合わされたときに生まれる。

後編では、外国の技術を「持つ」ことと「使いこなす」ことの違い、そしてこの研究が政策と企業経営に投げかける問いを検討する。

関連URL・参考資料

・Tarek Alexander Hassan, Aakash Kalyani, Juan Cruz Lopez Del Valle「Foreign Giants' Broad Shoulders: The Causal Effect of Foreign Ideas on U.S. Innovation」NBER Working Paper No. 35900(2026年10月)

https://www.nber.org/papers/w35900

・同論文 CEPR Discussion Paper No. 22034(2026年10月)

・Paul M. Romer「Endogenous Technological Change」Journal of Political Economy(1990年)

・Johannes Burchardi, Thomas Chaney, Tarek Alexander Hassan「Migrants, Ancestors, and Foreign Investments」Review of Economic Studies(2019年)

※本稿の数値は、2026年10月6日付の論文全文に基づく。NBERの公開要旨では、分析期間が1887年から2024年、外国の技術に依存する割合が54%と記載されており、版によって数値が異なる。