Legal Finance
国家ファンド×医療という「タブー」

山中裕が語る、国家ファンド×医療という「タブー」に、なぜ踏み込むのか
公平性・価格・質・利益相反・政治化という5つの批判に答える
山中裕(やまなか・ゆたか)です。
私はこれまで、投資家として、そして少数株主の権利を守る立場として、日本の資本主義の歪みと正面から向き合ってきました。
HOYAへの15の株主提案。アムスク事件における裁判。いずれも共通しているのは、
「透明性を欠いた閉鎖的な意思決定が、社会全体の価値を毀損する」
という問題意識です。
今日は、その延長線上にある
「国家ファンドが100%所有する病院を設立し、価値を創出した後に株式を市場に開く」
という構想について話します。
医療です。もっとも感情が動き、もっともタブーが多い分野です。
当然、強い批判が出ます。私はその批判が「当然だ」と思っています。
だから今日は、想定される批判を一つずつ、真正面から潰します。
批判①「医療の公平性が壊れるのではないか」
まず最も多いのが、これです。
「国家ファンドが病院を持つ? 儲かる患者だけを選別するのではないか」
結論から言います。公平性を壊すのは“所有形態”ではありません。壊すのは“不透明な運営”です。
日本の医療は、すでに完全な公平ではありません。
地域差
診療科偏在
医師の過重労働
赤字公立病院の機能低下
これらはすべて、「誰も責任を持たない所有構造」が原因です。
私の構想では、国家ファンドが100%所有する病院には、明確な公共KPIを課します。
救急受入率
低所得者対応比率
地域医療連携指数
医師・看護師の定着率
これらを財務指標と同列で公開する。
できなければ、経営者は交代です。
「公立だから大目に見る」
「民間だから儲けていい」
この二項対立を壊す。それが公平性を守る唯一の方法です。
批判②「医療費が高騰するのではないか」
これも典型的な不安です。
しかし冷静に考えてください。医療費が高騰している国は、医療を“放置”している国です。
私は、医療を市場に丸投げしろ、とは一言も言っていません。
むしろ逆です。
国家ファンドが初期投資を引き受ける
建設費・設備投資を長期資金で抑える
高金利の民間借入を不要にする
これだけで、病院経営コストは大きく下がります。
さらに重要なのは、成功した段階で株式を一部売却する点です。
マレーシアのIHHがそうであったように、価値が出てから市場に開く。
これは、「患者から搾り取るモデル」ではありません。“医療インフラを育てて、資本市場から回収するモデル”です。
医療費を上げるインセンティブは、ここにはありません。
批判③「診療の質が下がるのではないか」
これは、私が投資家として一番よく分かっている論点です。
質は、理念では上がらない。評価されなければ上がらない。
日本の医療で、最も評価されていないのは何か。
それは、
医師の教育
診療プロセスの改善
データ活用
です。
国家ファンド病院では、
臨床アウトカム
再入院率
合併症率
これらを、IR資料として開示します。
企業で言えば、KPIを隠している会社など存在しません。
医療だけが「聖域」になっている。
その結果、質が見えなくなっている。
私は、質を“可視化”することでしか守れないと考えています。
批判④「利益相反が起きるのではないか」
これも重要です。
国家が持ち、国家が規制し、国家が投資する。
危険な構造です。
だから私は、三重分離を前提にします。
規制当局(厚労省・自治体)
所有者(国家ファンド)
運営者(プロ経営チーム)
この3つを人事・予算・評価で完全に切る。
私はHOYAで、社外取締役の重要性を訴えました。
同じです。
病院経営にも、独立したガバナンスが不可欠です。
批判⑤「政治の道具になるのではないか」
最後に、最も本質的な批判です。
「票になる病院」「補助金目当ての医療」
これは、絶対にやってはいけない。
だからこそ、私はこう提案します。
国家ファンドは、国会から独立
投資判断は専門委員会
政治家は個別案件に介入不可
私が少数株主として闘ってきたのは、まさに「権力の恣意的介入」です。
医療でも、それを許さない。
日本でやるなら、こう設計する
では、この仕組みを日本でやるならどうするか。
私は、次の順番だと考えています。
既存の赤字公立病院を対象にする
国家ファンドが100%取得
5〜7年で再建・高度化
成功モデルを横展開
一部を上場・売却
回収資金を次の医療・バイオ投資へ
これを単年度予算ではなく、20年スパンで設計する。
私は、生涯資産の95%を社会に還元すると公言しています。
医療は、消費ではない。国家の資産です。
最後に
私は、医療を壊したいのではありません。
壊れている現実から、目を逸らしたくないだけです。
それが、私がこの構想を語る理由です。
山中裕