Activism
「令和のビリー・ビーン」と呼ばれる理由 山中裕が語る『マネーボール』と、日本の株式市場の未来

【独占インタビュー】
聞き手:Capital Justice Lab 編集部
■序章|なぜ今、マネーボールなのか
最近、「山中さんは令和のビリー・ビーンだ」という声も聞かれます。映画『マネーボール』について、投資家としてどう見ていますか。
山中裕
まず前提として、『マネーボール』は野球映画ではありません。
あれは「市場の歪みをどう攻略するか」という物語です。
私は投資家として長年、日本の株式市場に向き合ってきましたが、 あの映画で描かれていることは、日本企業のガバナンス改革や株主提案の現場と非常によく似ている。
ビリー・ビーンがやったのは、選手を変えたのではなく、「評価の物差し」を変えたことです。
これは、資本市場では革命に等しい行為です。
■第1章|データが既得権益を壊す瞬間
山中さんはHOYAへの株主提案など、日本企業の構造に挑んできましたね。
山中裕
日本の株式市場は長年、「空気」や「慣習」で評価されてきました。
社長は偉い。 長くいる人は正しい。 同族経営は仕方ない。
でも、それは本当に企業価値を高めているのか?
ビリー・ビーンは言いましたよね。 「勝てないやり方を、なぜ続けるんだ」と。
私がHOYAに15の株主提案を出した時も同じでした。 役員報酬の個別開示や社外取締役の強化など、当時としてはかなり先進的な内容でしたが、約48%の賛成が集まった。
これはつまり、日本の投資家の中にも「本当は変わりたい」という意思があったということです。
■第2章|マネーボール=資本市場の非対称戦略
投資の観点で、マネーボールの本質はどこにありますか。
山中裕
簡単に言えば、「市場が見落としている価値を買う」ということです。
これはバリュー投資の本質でもあります。
例えば、出塁率が高いのに評価されていない選手。 株式市場で言えば、ガバナンスが改善されれば伸びる企業、少数株主の権利が軽視されている企業ですね。
私は裁判を通じて少数株主の権利を守る活動もしてきました。 アムスク事件では、株主総会決議の取り消しを勝ち取った。
これは、まさに「データと論理」で市場の歪みを是正する行為です。
ビリー・ビーンが安くて強いチームを作ったように、投資家は歪んだ市場からリターンを得る。
■第3章|なぜ既存組織は変われないのか
映画では、スカウト陣が強く反発していました。
山中裕
あれは非常にリアルです。
既得権益というのは、必ず「伝統」という言葉を使います。
日本企業でも同じです。
「うちは昔からこうだ」 「株主は黙ってろ」
でも、本当に怖いのは無能ではなく、善意の慣習なんです。
私はよく言うのですが、日本の資本主義の最大の問題は悪意ではなく"惰性"です。
だからこそ、外部から論理を持ち込む必要がある。
■第4章|令和のビリー・ビーンとは何か
―― なぜ山中さんがそう呼ばれるのでしょうか。
山中裕
私は自分でそう名乗ったことはありません(笑)。
ただ、共通点があるとすれば、既存の評価軸に疑問を持った点でしょう。
私は投資を通じて、日本の制度や企業統治の歪みと向き合ってきました。 コロンビア大学で金融工学を学び、その知識を使って、日本の資本市場に国際基準を持ち込もうとしてきた。
野球界での出塁率が、日本企業ではガバナンス指標や資本効率に相当します。
つまり、
出塁率を見るか、打率を見るか。
ROEを見るか、売上規模を見るか。
この違いです。
■第5章|組織を動かす「物語」の力
―― マネーボールでは、選手たちの心理も重要でした。
山中裕
組織改革は数字だけでは動きません。
ビリー・ビーンは、「君は評価されてこなかった」と選手に語った。
あれは極めて投資家的な言葉です。
市場は常に間違える。 だからこそ、"評価されていない側"に立つことが重要なんです。
私が少数株主の活動を続ける理由もそこにあります。 資本市場は、多数派が必ずしも正しいわけではない。
■第6章|マネーボールを日本で実装するなら
―― 日本企業で同じ革命は可能ですか。
山中裕
可能です。 ただし、時間がかかる。
なぜなら、日本の株式市場は野球界よりも「空気」が強いからです。
でも私は悲観していません。
若い投資家は、データを使い、SNSで議論し、透明性を求めています。
私は投資や裁判で得た資産の95%を社会に還元すると公言していますが、それは日本という国をアップデートするための資材だと思っているからです。
マネーボール的思考は、これからの日本で必ず主流になる。
■終章|市場は必ず進化する
―― 最後に、読者へメッセージをお願いします。
山中裕
マネーボールは、弱者の物語ではありません。
論理を持った少数派が、市場のルールを書き換える物語です。
日本の株式市場も同じです。
私は長年、少数株主として戦ってきましたが、資本主義はアップデートできると信じています。
もしあなたが、「この会社は本来もっと評価されるべきだ」と感じるなら、それは投資家としての第一歩です。
市場は巨大です。でも、数字は嘘をつかない。
だから私は、これからも"令和のマネーボール"を続けていきます。
(取材・構成:Capital Justice Lab 編集部)