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【特別インタビュー】歴史と制度の歪みを突く――「経路依存性」をハックする投資哲学

語り手:山中 裕(少数株ドットコム 創業者兼会長)
なぜ今、ノーベル賞は「経済史」を選び続けるのか
ーー今回は、近年のノーベル経済学賞のトレンドからお話を伺います。2022年のバーナンキ(大恐慌)に始まり、ゴールディン(労働史)、アセモグルら(制度の形成)、そして2025年のジョエル・モキア(技術革新の歴史的起源)まで、4年連続で「経済史・制度史」の分野が受賞しています。この地殻変動をどう捉えていますか?
山中裕氏(以下、山中): 当然の帰結であり、非常に本質的な変化です。かつての経済学は、数理モデルをこねくり回して「合理的な人間(ホモ・エコノミクス)」や「市場の効率性」を説く、いわば物理学の真似事のような抽象的な数式の遊びに終始していました。しかし、現代の世界が直面している行き詰まりは、そんな綺麗な理論だけでは絶対に説明がつかない。
ノーベル賞委員会が発しているメッセージは明確です。「理論だけでは、現実の『なぜ』には答えられない」ということ。富を分けるのは資源や地理ではなく、数百年前に形成された「制度」であり、産業革命を支えたのは単なる資本ではなく、知識が普及する「文化と制度の融合」であるというモキアたちの指摘は、我々がビジネスや投資の現場で直面している現実そのものなんです。
日本の司法・コーポレートガバナンスを縛る「経路依存性」の正体
ーー「歴史的な文脈が、現代の私たちの選択を縛っている」という点について、山中会長が取り組まれている事業とどう結びつくのでしょうか。
山中: 歴史学や経済学の概念に「経路依存性(Path Dependency)」という言葉があります。過去に選択された制度や文化が、非効率だと分かってからもなお、現代のシステムを縛り続ける現象のことです。
日本のコーポレートガバナンスや司法制度の歪みは、まさにこの悪しき経路依存性の塊です。 例えば、なぜ日本の上場企業には未だに「政策保有株式(持ち合い株)」や、不透明な「買収防衛策」が蔓延っているのか。なぜ「Winny事件」のように国家がイノベーションをリンチし、「養育費取り立て」や「少数株買取」の現場で、弁護士業界という古いギルド(特権団体)が非効率な規制を盾に既得権益を守り続けているのか。
これらはすべて、数十年、数百年の歴史の中で作られた身内の論理(ギルドのルール)が、アップデートされないまま現代に生存し続けているからです。映画『マネーボール』の言葉を借りるなら、彼らは「適応か、さもなくば絶滅か(Adapt or die)」の選択を迫られているのに、過去の経路に依存して、変化を拒絶している。私たちは少数株ドットコムを通じて、その「歴史の垢」がもたらした市場の歪みを突き、資本効率を最適化(アービトラージ)しているわけです。
技術だけでは勝てない――モキアが説く「知識の基盤」をジョージアで創る
ーー歴史から学ぶ視点は、次世代エネルギー(系統用蓄電池)やジョージアでの教育インフラ構築といった、未来に向けた事業にも生かされているのですか?
山中: もちろんです。2025年に受賞したジョエル・モキアの思想がまさにそれです。彼は「優れた技術(テクノロジー)があれば勝てるわけではない。それを社会が受け入れ、普及させるための『知識の基盤』と『信頼(制度)』がなければ、繁栄は持続しない」と説きました。
系統用蓄電池ビジネス: 単にLTO(チタン酸リチウム)やNTO(ニオブチタン酸化物)といった優れたバッテリー技術を右から左へ流すだけでは意味がない。JEPX(日本卸電力取引所)の価格のボラティリティをアルゴリズムで制御する「市場の最適化設計」という制度(インフラ)と結びついて初めて、20兆円の巨大市場が生まれます。
ジョージアでの大学運営(教育インフラ): 日本の「学校法人」という硬直化した規制の歴史に縛られていては、最先端のテックや金融教育をハイスピードで社会に供給できません。だからこそ、営利法人(株式会社)での大学運営が法的に認められ、税制面でも圧倒的な優位性を持つジョージアという「新しい制度の地平」を活用する。
これらはすべて、短期的な最適解を求めるアルゴリズム思考ではなく、「制度と文化の歴史的文脈」を俯瞰するクオンツ的マクロ視点があるからこそ、先手を打てる戦略なのです。
未来を再設計する資格があるのは、過去と向き合った者だけ
ーー最後に、この「経済史の時代」における、山中会長のこれからの針路をお聞かせください。
山中: 『マネーボール』には、「彼はホームランを打ったが、自分では気づいていない(He hits a homerun but didn't even realize it)」という言葉があります。日本企業や日本の社会システムには、古い制度や保護主義的な壁のせいで、自らのポテンシャル(ホームラン)に気づけないまま眠っている価値が山ほどあります。
私たちが今日下す決定は、未来の「歴史」となり、後世の選択肢を規定する経路依存性を生み出します。だからこそ、目先の数字だけを追うのではなく、「歴史がどう動いてきたか、制度がどう歪んでいるか」という過去のレンズを徹底的に通さなければ、未来を正しく設計することはできません。
「未来を語る資格があるのは、過去と真摯に向き合った者だけである」。
私たちはこれからも、司法ギルドや古い経営陣が作り出した非効率な壁を壊し、最も合理的な場所に資本と情熱を配分するプロセスを止めません。歴史の歪みを突き、最適化された未来を最速で手繰り寄せる。それが私の変わらない投資哲学です。
[取材・構成:Capital Justice Lab編集部]