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1900年パリ万博は企業の成長をどう変えたのか――国際展示会と輸出拡大を検証した経済学研究

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国際展示会への参加は、企業にどれほどの経済的利益をもたらすのか。製品を紹介する機会にとどまらず、新たな取引先の獲得や輸出の拡大、さらには技術革新にもつながるのだろうか。2026年に公表された経済学論文「What Happens in Paris, Does Not Stay in Paris: Trade Fairs and Search and Matching Frictions」は、1900年のパリ万国博覧会を分析し、こうした疑問に実証的な答えを提示している。

著者はガーボル・ベーケシュ(Gábor Békés)、マーチャーシュ・モルナール(Mátyás Molnár)、クラウディア・シュタインヴェンダー(Claudia Steinwender)の3人である。論文は2026年6月にCEPRのディスカッションペーパーとして公表され、同年8月に改訂された。研究によると、パリ万博への参加はハンガリー企業の輸出拡大を促し、その後の雇用増加や特許取得とも結びついていた。

万博への参加が輸出と雇用を押し上げた

1900年のパリ万博は、各国の企業が製品や技術を紹介する大規模な国際イベントだった。当時は海外の取引相手を探すための情報や通信手段が限られており、国境を越えた商取引には多くの時間と費用が必要だった。世界各地の企業や買い手が集まる万博は、こうした障害を軽減する場として機能していたと考えられる。

著者らは、1896年から1909年にかけてのハンガリーの製造企業3,614社を対象に、博覧会の出展記録、企業名鑑、政府調査、特許資料など11種類の歴史資料を分析した。その結果、パリ万博への参加によって、オーストリア=ハンガリー国外へ輸出する確率が4.2~18.3ポイント上昇したと推定された。参加前の輸出確率は約15%であり、参加効果は1909年にも残っていた。雇用についても、8年間で17.7~27.1%の増加が推定されている。

これらの結果は、国際展示会への参加が一時的な宣伝効果にとどまらず、企業の継続的な事業拡大につながる可能性を示している。

海外取引を妨げる情報不足を解消する役割

海外市場への進出には、製品の競争力だけでなく、適切な取引先を見つけることが必要となる。売り手は信頼できる買い手を探し、買い手は製品の品質や供給能力、取引条件を確認しなければならない。経済学では、このような取引相手の探索や組み合わせに伴う障害を「探索・マッチングの摩擦」と呼ぶ。

国際展示会では、売り手と買い手が同じ場所に集まり、製品を確認しながら商談できるため、こうした障害が小さくなる。今回の研究でも、潜在的な海外の買い手が多く、国内の競合企業が少ない分野ほど、参加効果が大きいことが確認された。

ただし、出展企業は無作為に選ばれたわけではない。著者らは、1896年のブダペスト博覧会で企業に与えられた表彰等級を利用し、参加企業を上位または下位の等級に属する不参加企業と比較した。これにより、もともと優良な企業が選ばれた影響を考慮しながら、万博参加による効果の範囲を推定している。

輸出市場の拡大が技術革新を促した可能性

今回の研究で注目されるのは、パリ万博への参加が輸出だけでなく、技術革新にも関係していたことである。1900年から1905年にかけて、参加企業が特許を取得する確率は4.2~9.1ポイント上昇したと推定された。

展示会では外国の技術を見学できるため、新しい発明を模倣したことが技術革新の理由とも考えられる。しかし、著者らが特許の内容を分析したところ、会場で紹介された外国技術に近づいたという明確な証拠は確認されなかった。

一方、特許取得の増加は輸出の拡大とともに生じていた。この結果から、海外市場への進出によって販売機会が広がり、研究開発に必要な費用を回収しやすくなったことが、技術開発を促した可能性が指摘されている。ただし、外国の顧客との取引を通じて技術的な知識を得た可能性もあり、その影響を完全に切り分けることはできない。

展示会の規模よりも取引相手との適合性が重要

今回の論文は、展示会への参加がすべての企業に同じ利益をもたらすと結論づけているわけではない。効果は企業の輸出経験や市場環境によって異なり、国内の競合が少なく、海外の買い手が多い分野ほど大きかった。

また、展示会への参加企業が増えれば、同じ買い手をめぐる競争が激しくなる可能性がある。展示会の出展枠を拡大するだけでは、参加企業全体の利益が同じ割合で増えるとは限らない。さらに、研究が推定したのは主として出展企業が得た利益であり、公的補助を含む展示会の社会全体での費用対効果を示したものではない。

現在ではオンライン商談や電子商取引が普及しており、1900年当時と比較して海外取引の費用は大きく変化している。それでも、取引先の探索、品質の確認、企業間の信頼形成といった課題は、現代の国際ビジネスにも存在する。

企業成長を左右する海外市場との接点

今回の研究から得られる示唆は、国際展示会の成果を来場者数や商談件数だけで評価することには限界があるという点である。重要なのは、自社製品に需要のある市場と接点を持ち、継続的な取引へ発展させられるかどうかである。

企業が海外展示会への出展を検討する際には、潜在的な買い手の数や競合状況、取引開始後の販売機会などを見極める必要がある。さらに、出展によって生まれた商談が、数年後の輸出拡大や売上増加、製品改良につながったかを検証することも重要となる。

国際展示会の経済的な価値は、多くの来場者に製品を見せることだけではなく、企業と海外市場を結びつけ、継続的な成長の機会を生み出すことにある。 1900年のパリ万博を対象とした今回の研究は、企業が海外市場へ進出するための条件と、市場の拡大が技術革新に及ぼす影響を考えるうえで、重要な知見を提供している。


紹介論文・CEPR公式掲載ページ

Gábor Békés, Mátyás Molnár, Claudia Steinwender (2026)

What Happens in Paris, Does Not Stay in Paris: Trade Fairs and Search and Matching Frictions

CEPR Discussion Paper No. 21574

【ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)・論文掲載ページ】

What Happens in Paris, Does Not Stay in Paris: Trade Fairs and Search and Matching Frictions

CEP Discussion Paper No. 2192

【LSE・論文全文PDF(86ページ)】

What Happens in Paris, Does Not Stay in Paris: Trade Fairs and Search and Matching Frictions

2026年8月改訂版

【ifo研究所・CESifo掲載情報】

What Happens in Paris, Does Not Stay in Paris: Trade Fairs and Search and Matching Frictions

CESifo Working Paper No. 12714

【著者Claudia Steinwender・研究業績ページ】

What Happens in Paris, Does Not Stay in Paris: Trade Fairs and Search and Matching Frictions

【著者Gábor Békés・研究業績ページ】

What Happens in Paris, Does Not Stay in Paris: Trade Fairs and Search and Matching Frictions