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非流動性の負担は誰が負うべきか――二つの最高裁決定を「負担の帰属」から読み直す

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市場で売れないことは、株式の価値をどれだけ引き下げるのか。そして、その引き下げを、価格決定の場面で誰に負わせるべきなのか。

前者は経済学の問いであり、後者は法の問いである。非上場株式の価格をめぐる議論では、この二つの問いがしばしば混同されてきた。非流動性ディスカウント(DLOM)の可否をめぐる日本の最高裁判所の二つの決定は、結論が分かれているように見える。しかし、二つの問いを区別して読み直すと、両決定の関係と、なお残された問題の所在が、より明確に見えてくる。

本稿では、2026年のノーベル経済学賞を受賞したロバート・ホールの研究を補助線として、最高裁平成27年3月26日決定と令和5年5月24日決定を、「非流動性の負担は誰に帰属するのか」という観点から整理する。

問題の所在――価値の問いと、配分の問い

ホールとスーザン・ウッドワードの2010年の研究は、分散も売却もできない株式について、期待値と保有者にとっての確実性等価との間に大きな乖離があることを示した。両者はこの乖離を、保有者が負う「負担」と呼んだ。

この研究が明らかにしたのは、非流動性のコストが実在し、測定可能だということである。しかし、それだけでは、価格決定の場面でそのコストを価格から差し引くべきかどうかは決まらない。コストが存在することと、そのコストを誰が負担すべきかとは、別の問題だからである。

たとえば、ある株式を保有し続ける者にとって、売れないことは確かにコストである。しかし、その株式を取得する者が、すでに多くの株式を保有する支配株主であれば、取得後の株式について、同じ水準のコストを負うとは限らない。非流動性のコストは、資産そのものに付着しているのではなく、資産と保有者の組み合わせに付着しているのである。

二つの決定の整理

まず、二つの決定の内容を確認する。

・最決平成27年3月26日(民集69巻2号365頁):非上場会社を消滅会社とする吸収合併に反対した株主の株式買取請求(会社法785条1項)の事案。原々審は収益還元法による算定額から25%の非流動性ディスカウントを行ったが、最高裁はこれを否定した。理由として、収益還元法には市場価格との比較の要素が含まれていないこと、反対株主の買取請求が退出する株主への企業価値の適切な分配を目的とすることが挙げられた。

・最決令和5年5月24日(集民270号113頁):譲渡制限株式の売買価格決定(会社法144条2項)の事案。原審はDCF法による評価額から30%の非流動性ディスカウントを行い、最高裁はこれを維持した。理由として、同条の手続きが譲渡を希望する株主に投下資本の回収手段を保障するものであり、任意の譲渡の場合と同様に非流動性ディスカウントを行えることが挙げられた。あわせて、算定の過程ですでに市場性の欠如が考慮されている場合には、さらなる減価は二重の減価として相当でないとの留保が付されている。

令和5年決定は、平成27年決定を事案を異にするものと位置づけ、その射程を限定した。

経済学から見た「負担の帰属」

ここで、冒頭の二つの問いを区別して、両決定を読み直してみる。

令和5年決定の事案では、株主は自ら株式の譲渡を望み、会社法の手続きに従って売却を進めた。この場面で裁判所が決めるのは、市場が存在すれば成立したであろう売買の価格、すなわち、売り手と買い手の間の仮想的な取引の価格である。自由な取引であれば、売れにくい資産は、売り手が値引きを受け入れることによって売却される。売り手が自らの判断で退出を選ぶ以上、非流動性のコストを売り手が負うことは、市場の取引と整合的である。

これに対し、平成27年決定の事案では、株主は組織再編によって、意に反して会社からの退出を余儀なくされた。この場面で非流動性を理由とする減価を認めれば、退出を強いる側は、強いられる側の株式が売れないという事情を理由に、支払いを減らすことができる。ホールらの枠組みに照らせば、少数株主に固有の負担が、そのまま取得者の利益に移転されることになる。しかも、その取得者は、取得によって少数株主の負っていた負担を消滅させる立場にある。

このように読むと、二つの決定は、非流動性のコストの存否について異なる判断を示したのではなく、そのコストの帰属について、退出が自発的か強制的かに応じた配分を示したものと理解することができる。経済学が示す「コストの実在」と、法が定める「コストの配分」とは、矛盾するものではない。

もう一つの読み方――二重減価の技術論

もっとも、両決定の関係については、異なる読み方もある。平成27年決定の事案では、資本還元率の算定に小規模会社のリスクを反映した上乗せがすでに含まれており、そこに非流動性ディスカウントを重ねたことが問題だった、とする理解である。この理解によれば、両決定を分けるのは退出の性質ではなく、二重減価の有無であり、非上場株式である以上、二重減価にならない限り減価は認められることになる。

この読み方は、評価の技術に関する重要な問題を提起している。DCF法や収益還元法の割引率は、多くの場合、上場会社のデータから推計される。上場株式の収益率は、流動性のある市場で形成されたものであり、そこから導かれる割引率は、流動性の存在を前提としている。この点を重視して、平成27年決定の論理そのものを批判する有力な学説もある。

他方で、割引率に上乗せされる規模のプレミアムなどが、実質的に流動性の乏しさを反映しているとすれば、それに加えて非流動性ディスカウントを行うことは、同じ要素を二度差し引くことになる。どの要素がどこで考慮されているかは、評価ごとに異なり、外部からは判別しにくい。

金融経済学の実証研究は、流動性の価値が小さくないことを示している。ヤコフ・アミフドとハイム・メンデルソンは1986年、取引費用の大きい株式ほど高い期待収益率が要求されることを示した。売却が制限された株式の価格を分析した研究や、非上場企業と上場企業の買収価格を比較した研究は、二割から三割程度の価格差を報告している。日本のM&A取引についても、三割程度とする分析がある。ただし、これらの水準が個々の評価にそのまま当てはまるわけではなく、令和5年決定も、30%という率の適否そのものには判断を示していない。

残された領域――強制取得の場面

二つの読み方のどちらを採るかによって、結論が分かれる領域がある。特別支配株主による株式等売渡請求(会社法179条の8)や、全部取得条項付種類株式の取得(同172条)など、少数株主の株式が、その意思にかかわらず取得される場面である。

負担の帰属という観点から読めば、これらの場面は平成27年決定の事案と同じ構造を持つ。退出を強いる側が、強いられる側の非流動性を理由に支払いを減らすことは、許されないことになる。他方、二重減価の技術論として読めば、二重減価にならない限り、これらの場面でも減価が認められる余地がある。

締め出しの局面における非流動性ディスカウントの可否は、少数株主の利益に最も直結する論点でありながら、最高裁の判断を待つ状態にある。

税務評価との関係

この議論には、税務上の評価が交錯する。

財産評価基本通達に基づく相続税評価額は、課税の公平と執行の便宜のための行政上の基準であり、会社法上の「公正な価格」を定める裁判所を拘束するものではない。しかし実務では、会社側が通達に基づく評価を出発点として買取価格を提示することがある。

その場合に問われるのは、通達に基づく評価の中に、市場性の欠如がすでに織り込まれているかどうかである。類似業種比準方式における斟酌率を、非流動性を考慮した減価と理解する見方もあるが、国税庁自身はその趣旨を上場株式との評価の均衡として説明しており、非流動性ディスカウントであるとは明言していない。通達由来の評価を出発点とする価格に、さらに非流動性ディスカウントを重ねてよいかは、令和5年決定のいう二重減価の問題として、正面から検討されるべきである。

含意――配分の原則と、算定の透明性

以上の整理から、二つの方向の提言を導くことができる。

第一は、配分の原則の明確化である。非流動性のコストは、資産と保有者の組み合わせに付着するものであり、強制的な取得によってそのコストを消滅させる立場にある者が、その存在を理由に支払いを減らすことは、少数株主の負担を取得者の利益に転換することにほかならない。強制取得の場面において非流動性ディスカウントを否定する原則は、平成27年決定の趣旨に沿うものとして、立法または判例によって明確にされることが望ましい。

第二は、算定の透明性の確保である。二重減価の有無を判断するためには、評価の過程で流動性の乏しさがどこで、どの程度考慮されているかが明らかにされなければならない。

・割引率を構成する各要素(無リスク利子率、市場リスクプレミアム、β値、規模のプレミアム、個別リスクの上乗せなど)と、その根拠となるデータを個別に開示すること

・各要素のうち、流動性の乏しさを実質的に反映しているものを特定すること

・非流動性ディスカウントを行う場合には、その率の根拠となる実証的な資料を示すこと

・税務上の評価を出発点とする場合には、その評価に含まれる減価の要素を明らかにすること

非流動性のコストが実在するという経済学の知見は、それを誰が負うべきかという問いに、自動的に答えを与えるものではない。その答えを決めるのは、法の配分の原則であり、その原則を実効的なものにするのは、算定の透明性である。

コストが実在することと、そのコストを誰が負うべきかは別の問題である。退出を強いる者に、強いられる者の弱みを値引きの根拠とさせてはならない。

関連URL・参考資料

・最高裁判所第一小法廷 平成27年3月26日決定(民集69巻2号365頁)

・最高裁判所第一小法廷 令和5年5月24日決定(集民270号113頁)

・PwC弁護士法人「譲渡制限株式の売買価格決定における非流動性ディスカウントに関する最高裁決定」(2023年6月)

https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/news/legal-news/legal-20230626-2.html

・Robert E. Hall, Susan E. Woodward「The Burden of the Nondiversifiable Risk of Entrepreneurship」(American Economic Review、2010年)

https://ideas.repec.org/a/aea/aecrev/v100y2010i3p1163-94.html

・Yakov Amihud, Haim Mendelson「Asset pricing and the bid-ask spread」(Journal of Financial Economics、1986年)

・William L. Silber「Discounts on Restricted Stock: The Impact of Illiquidity on Stock Prices」(Financial Analysts Journal、1991年)

・John Koeplin, Atulya Sarin, Alan C. Shapiro「The Private Company Discount」(Journal of Applied Corporate Finance、2000年)

・江頭憲治郎『株式会社法』第8版(有斐閣、2021年)

・鈴木一功ほか「日本における非流動性ディスカウントの実態」(『MARR』2016年4月号)

・e-Gov法令検索「会社法」

https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086