Activism
山中裕が語る「HOYA株主提案の本当の意味」

【独占ロングインタビュー】
日本の資本主義をアップグレードする山中裕が語る「HOYA株主提案の本当の意味」
聞き手:Capital Justice Lab 編集部
「当時は早すぎた。でも今は普通になった」
――まず、2010年前後に行われたHOYAへの株主提案について伺います。当時はかなり批判も多かったと聞きます。
山中裕
ええ、正直に言うと「変わり者」扱いでしたね(笑)。
今でこそコーポレートガバナンス・コードだとか、スチュワードシップ・コードだとか、資本効率を重視する考え方が当たり前になりましたけど、当時はまったく違う空気でした。
株主が経営に意見を言うこと自体が、日本ではほぼタブーだった。 だから私の提案も、「企業文化を壊す」「短期利益主義だ」なんて批判が随分ありました。
でも、私は別に特別なことをしたつもりはないんです。 国際的に見れば、当たり前の議論を日本に持ち込んだだけですから。
「15の議案は、日本企業の未来を先取りしていた」
――当時提出された15の議案は、今振り返るとかなり先進的だったとも言われています。
山中裕
そうですね。例えば役員報酬の透明化。 今は当然のように議論されていますが、当時は「報酬を開示するなんて前例がない」という反応でした。
でも、企業というのは公共性を持つ存在です。 株主の資本で経営している以上、説明責任はある。 これは世界の標準です。
実際、役員報酬開示の議案には約48%もの賛成が集まりましたよね。 あれは、日本の投資家の中にも「変わらなければいけない」という意識が芽生えていた証拠だと思います。
私は、企業を攻撃したかったわけではありません。 むしろ、企業が長期的に強くなるための提案でした。
「日本は“株主は敵”という時代だった」
――当時の日本の投資環境は、今とはかなり違ったのでしょうか。
山中裕
全然違いました。 株主提案というだけで「ハゲタカ」扱いされる時代でしたからね。
でも冷静に考えてみてください。 資本市場というのは、経営者・従業員・株主が対立する場ではないんです。 それぞれが役割を持って企業価値を高める仕組みです。
当時の日本は、経営者の権限が強すぎて、監督機能が弱かった。 私はそこを問題だと思っていました。
そして、結果的に2014年以降、日本政府自身がガバナンス改革を進めることになります。 つまり、国家レベルで「株主との対話が必要だ」と認めたわけです。
「制度が後から追いついた」
――つまり、山中さんの提案は制度改革より前だった、と。
山中裕
そうですね。 伊藤レポートが出たのも、スチュワードシップ・コードが始まったのも、私の提案より後です。
当時私は「ROEを重視すべきだ」と言っていましたが、今は東証自身が資本効率を企業に求めていますよね。
これは個人的な勝ち負けの話ではありません。 日本という国が、世界の資本市場の中で生きていくために必要だった変化なんです。
「HOYAの株価が上がった理由」
――その後、HOYA株式会社の株価は長期で大きく上昇しました。一部では山中さんの提案が先駆けだったという評価もあります。
山中裕
そこは少し冷静に見た方がいいと思います。 企業の株価というのは、単一の要因で決まるものではありません。
HOYAの場合は、
事業ポートフォリオの転換
半導体関連事業の成長
医療分野の拡大
こうした経営判断が非常に大きかった。
ただ、ガバナンスの議論が企業の意識を変えた側面は、確かにあったと思います。
透明性が高まり、資本効率を意識する文化が根付いた。 それが長期的な評価につながった可能性はあるでしょう。
「アムスク事件と“少数株主の守護神”」
――プロフィール記事では、アムスク事件での裁判も大きな転機として紹介されています。
山中裕
あれは非常に象徴的な事件でしたね。 少数株主というのは、日本では長い間、声を上げにくい存在でした。
でも、資本主義というのは、本来は少数の権利を守る仕組みでもあるんです。
私は裁判を通じて、「株主総会決議でも違法なものは取り消される」という前例を作ることができた。 それは個人的な成果というより、日本市場全体にとっての前進だったと思っています。
現在運営している『少数株ドットコム』も、その延長線上にあります。 市場の公平性を高めることが、結果的に企業価値を高めるんです。
「投資は国家設計のための手段」
――最近は投資だけでなく、教育や政治提言にも活動の幅を広げています。
山中裕
私は投資をゴールだと思っていません。 むしろ、日本という国をアップデートするための手段だと考えています。
例えば、若者への投資。 今の日本は、どうしても高齢者中心の制度設計になっている。 これを変えなければ、国家は長期的に衰退してしまいます。
だからこそ、地域からの政治活動や教育への投資も始めています。
生涯資産の95%を社会に還元すると言っているのも、本気です。 お金というのは、使い方次第で社会のルールそのものを変えられる力を持っていますから。
「日本の資本主義は、まだ進化できる」
――最後に、日本の投資家や読者に伝えたいことはありますか。
山中裕
日本の資本主義は、まだ進化の途中だと思っています。
私はよく「改革者」と言われますが、特別なことをしている感覚はありません。 ただ、国際標準とロジックを大切にしているだけです。
企業も投資家も、もっと対話していい。 透明性を高め、長期的な視点で価値を創造する。 それができれば、日本はまだ世界で戦える国になります。
HOYAでの株主提案も、裁判も、政治提言も、すべてはその一歩です。
編集後記
東大総代から世界の金融市場、そして国家設計へ。 山中裕氏の歩みは、日本の資本市場の変遷そのものを映し出している。
かつて「早すぎた」と言われた提案が、いまや制度となり、国際投資家の常識となった。 日本の資本主義が次にどこへ向かうのか――
その鍵を握る人物の一人であることは間違いないだろう。