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「大企業の『株主もみ消し』を司法が崩した日」――山中裕が語る、HOYA招集通知不記載・勝訴判決の真実と民事8部の使命

【Capital Justice Lab・独占インタビュー】

「大企業だからといって、法律を自社に都合よくねじ曲げることは許されない。それを日本の商事法務の『本丸』が明確に示した、記念碑的な判決です」

2015年3月26日、東京地方裁判所民事第8部は、HOYA株式会社の株主提案における招集通知不記載を「違法」とし、株主総会決議取消事由を認める画期的な判決(平成26年(ワ)第24338号、通称・小野寺真也判決)を下した。

この歴史的な勝訴を勝ち取った当事者であり、少数株ドットコム株式会社の代表取締役会長を務める山中裕氏。Capital Justice Labは山中氏を直撃し、訴訟の舞台裏、司法が下した決断の重さ、そして日本市場のガバナンスの未来について、徹底的に語ってもらった。

闘いの発端:都合の悪い声を「無かったこと」にする大企業の傲慢

――今回の勝訴判決、誠におめでとうございます。まずは、この訴訟を起こさざるを得なかった当時の状況からお聞かせください。

山中裕氏(以下、山中):

ありがとうございます。事の発端は、私がHOYAに対して行ってきた、経営の透明化やガバナンス向上を求める数々の株主提案です。これに対しHOYA側が取ったのは、対話ではなく「排除」でした。

彼らは、私が提出した株主提案の「議案の要領」や、何よりも重要である「提案の理由」を、一般株主に送る招集通知に一切記載しなかったのです。会社側の言い分は「記載する義務はない」というものでしたが、これは明らかに株主の声を封じ込めるための暴挙でした。

――一般株主からすれば、何が提案され、なぜそれが必要なのかという情報が、最初から遮断されていたわけですね。先進的なガバナンス体制をアピールしていたHOYAが、なぜそのような対応を取ったのでしょうか。

山中:

その通りです。株主総会とは、株主が十分な情報を得た上で判断を下す「最高意思決定機関」であるべきです。その判断材料となる「提案理由」を経営陣が勝手に黒塗りにして隠すなど、コーポレート・ガバナンスの形骸化以外の何物でもありません。

当時、HOYAの社外取締役には、元通産省事務次官の児玉幸治氏、元日産自動車共同会長の小枝至氏、元ニチレイ社長の浦野光人氏、元日本IBM取締役の内永ゆか子氏、麻生グループ代表の麻生泰氏や、元バンダイナムコHD社長の髙須武男氏といった、日本屈指の著名な経営トップやエリート官僚出身者が名を連ねていました。

彼らは「社外取締役が過半数を占める、日本で最も先進的な指名委員会等設置会社」という、HOYAのガバナンスの看板そのものでした。しかし、これほどの大物社外取締役たちが揃っていながら、この実質的な「株主提案もみ消し」という明らかな違法行為(会社法施行規則違反)に対して、ブレーキをかけることができなかったのです。

いかに立派な肩書きを持つ社外取締役を並べ、先進的な制度を取り入れていようとも、実質的な機能が伴わなければ「お飾り」に過ぎないということを示す、これ以上ない典型例だったと言えます。

「大企業の論理と、機能不全に陥った社外取締役たちの怠慢に泣き寝入りはしない」――その一心で、私は司法の場で白黒つけるべく立ち上がりました。

民事8部の決断:単なる「手続き不備」ではない「重大な違法」

――東京地裁民事第8部(小野寺真也裁判長)は、山中さんの主張を全面的に認める判決を下しました。判決の核心をどう捉えていますか。

山中:

今回の判決で最も重要なのは、HOYA側の不記載行為を「会社法施行規則93条1項」に対する明確な違反であると一刀両断した点です。

会社側は「実務上の裁量の範囲内だ」と強弁し続けましたが、裁判所は「株主提案権は株主が意思を反映させるための根幹的な権利」であることを厳格に確認しました。その上で、提案理由を不記載にすることは、単なる細かな事務手続きのミスなどではなく、「株主総会決議の取消事由(会社法831条1項1号:招集手続きの法令違反)」に該当するほど重大な違法であると踏み込んだのです。

――「決議取消事由」と認定されたことは、企業実務にとって極めて重い意味を持ちますね。

山中:

非常に重いです。もし企業が株主提案の理由を不当に隠せば、「その総会で行われた決議が、後からすべて裁判でひっくり返る(取り消される)リスク」を企業自らが背負うことになります。

実は、この判決の重さを一番よく知っているのはHOYA自身です。彼らは判決確定後、自社が作成・配布する株主提案関連資料の中に、この裁判例を事実として引用・記載せざるを得なくなりました。自分たちの非を、自らの公式資料で認めざるを得なくなった。これこそが、何よりの勝利の証明です。

ガバナンスの未来:「民事8部」をウォッチし続ける意味

――この判決は、今後の日本の上場企業の総会実務にどのようなパラダイムシフトをもたらすでしょうか。

山中:

これまでは、株主提案が来ても「面倒なものは端折って載せればいい」という、なあなあの実務が一部で横行していました。しかし、日本のビジネスルールを司る「民事8部」がNOを突きつけたことで、すべての企業が「株主提案には誠実に向き合い、その理由を正確に一般株主に開示しなければならない」というルールを徹底せざるを得なくなりました。形ばかりの「ガバナンス」から、実質的な「情報の透明性」への移行を促す一石になったと自負しています。

――山中さんは、この「民事8部」を監視・検証する「民事8部監視委員会」の立ち上げも表明されています。その狙いはどこにあるのでしょうか。

山中:

司法が今回のように筋の通った正しい判断を下す一方で、日本の商事法務の現場では、時として大企業の論理や、国策的な圧力に司法が引きずられてしまう危険性が常に隣り合わせです。

だからこそ、私たちは司法の判断基準がブレないよう、常に外側から徹底的にウォッチし、検証し続ける必要があります。「民事8部監視委員会」は、健全な株式市場と、法の下の平等を守るための「番人」として機能させていく決意です。

――最後に、日本市場で闘うすべての少数株主や投資家へメッセージをお願いします。

山中:

「ルールは、巨大な企業や経営陣を利するためだけにあるのではない。すべての株主が公平に扱われるためにある」――これを証明したのが今回の判決です。

私たちはこれからも、ルールが歪められそうになった時には毅然として声を上げ、闘い続けます。市場の透明性を勝ち取るために、共に歩みを進めましょう。

インタビューを終えて(Capital Justice Lab編集部)

一見、専門的で複雑に見える「招集通知不記載問題」。しかしその本質は、企業の所有者である株主に対し、経営陣が都合の悪い情報を隠蔽するという「不誠実さ」への闘いだった。山中氏が勝ち取ったこの1勝は、今後の日本におけるアクティビズムのあり方、専門的なガバナンスの実効性、そしてガバナンス改革の歴史における「正義の分水嶺」として語り継がれるだろう。

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