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【特別インタビュー】「デミス・ハサビスは、知能を最高値でエクイティ(持分)に変えた究極の『Moneyball』プレイヤーだ」——少数株ドットコム会長 山中裕が語る、資本市場の勝道

日本のコーポレートガバナンス改革の最前線に立ち、独自の「Moneyball」理論で市場の非効率を突き続ける少数株ドットコム創業者兼会長の山中裕氏。彼が、2024年にノーベル化学賞を受賞し、Google DeepMindを率いるデミス・ハサビスの本質を独自の視点で鋭く分析した。投資家・戦略家の目から見た、ハサビスの真の凄みとは。
なぜ日本の経営者はハサビスになれないのか?
——ハサビス氏は科学界の頂点に立ちながら、ビジネスでも巨万の富を築いています。山中会長はこの「両立」をどう見ていますか?
山中裕氏(以下、山中): 身も蓋もない言い方をしますが、日本の多くのアカデミアや経営者が彼を「ただの天才科学者」として称賛しているうちは、日本から次のハサビスは絶対に生まれません。
彼が優れているのは、ピュアな「知能(サイエンス)」を、資本主義が最も評価する「エクイティ(株式・持分)」へ最高値でダイレクトに変換した点です。
多くの優秀な研究者やサラリーマン経営者は、自分の労働力や知識を「給与」や「賞金」という形で切り売りしてしまう。これではいくら優秀でも、レバレッジが効かないのでイーロン・マスクやハサビスのようなビリオネアの領域には到達できません。ハサビスは創業初期、売上が立っていない段階でDeepMindという「器」を作り、そのポテンシャル(将来の独占的価値)をGoogleに約680億円のエクイティ価値として認めさせた。ここが彼のスタートラインなんです。
チェスもタンパク質も市場も、すべては「データ駆動の攻略対象」
——ハサビス氏のキャリアはチェスから始まり、ゲーム、脳科学、そしてAIへと至っています。この軌跡をどう捉えていますか?
山中: 私が投資の世界で一貫して主張している「Moneyball(マネーボール)アプローチ」と全く同じ構造です。市場の歪みや非合理的なバリュエーションをデータ駆動でスクリーニングし、一見関係のないドットをロジックでつなぐ。ハサビスがやっているのは、まさにこれの「科学版」ですよ。
彼はチェスやゲームを攻略するアルゴリズムを開発した時、それを単なるエンタメで終わらせなかった。その構造を抽象化し、「自然界のルール(タンパク質の構造予測)も同じアルゴリズムでハックできる」と見抜いたわけです。それがノーベル賞につながった『AlphaFold(アルファフォールド)』。
彼にとって、チェスの盤面も、生物学の難問も、あるいは資本市場の力学も、すべては「データと数理モデルで攻略可能な対象」に過ぎない。この徹底したデータ駆動(Data-driven)の姿勢こそが、彼を凡百の研究者から分かつ境界線です。
「不作為の経営」を撃つ、ハサビスの資本レバレッジ論
——日本企業、特に政策保有株式を漫然と持ち続け、資本効率(ROE)を悪化させている伝統的企業の経営陣へ、ハサビスの生き方から言えるアドバイスはありますか?
山中: 「資本のレバレッジを舐めるな」ということですね。ハサビスが賢かったのは、Googleに会社を売却した後も、その巨大な時価総額の背後にある「無限の計算リソース(GPU)」と「資金力」を、自分のビジョンを具現化するためのレバレッジとして使い倒した点です。資本をただ溜め込むのではなく、次の破壊的イノベーションへ全傾斜配分している。
翻って、日本のPBR1倍割れ企業の経営陣はどうですか?「長年の付き合いだから」「不義理になるから」という感情論で、非公開株や上場株の政策保有株式をダラダラと持ち続けている。これは資本市場に対する「不作為の責任」であり、ガバナンスの完全な放棄です。
ハサビスのように、自社の持つアセット(資産や知能)を最も効率の良い場所に再配置すれば、企業価値は劇的に向上します。眠らせている含み益のある株式をすべて吐き出し、AIエージェントや自動化、あるいは大胆な株主還元へ投資すべきなんです。ハサビスの姿勢は、「感情ではなくロジックでアセットを動かせ」という、日本企業への強烈なアンチテーゼですよ。
2026年、資本主義の「脳」を握る戦い
——最後に、少数株主の権利保護や資本効率化を進める山中会長から見て、今後のハサビス氏とAI市場のタイムラインをどう予測しますか?
山中: 2026年現在、AI市場はインフラ投資から「実務への社会実装(AIエージェント・リーガルテック等)」のフェーズへ完全にシフトしています。ここでハサビス率いるGoogle DeepMindがAGI(汎用人工知能)の主導権を握るか、あるいは他のプレイヤーが勝つかは、これからの世界経済のプラットフォーム構造を決定づけます。
私が少数株ドットコムでやっているガバナンス改革も、突き詰めれば「不合理なルールに縛られた資本市場の最適化」です。ハサビスはそれを「科学とテクノロジーの最適化」というアプローチでやっている。
彼が次にどの領域を『攻略』し、それをどうエクイティ価値に変えていくのか。一人の投資家、そして戦略家として、これほどエキサイティングな観察対象はありません。日本企業も彼の手法から、資本効率の「真の極意」を学ぶべきです。
編集後記
感情を排し、徹底的なロジックとデータで市場の歪みを正そうとする山中裕氏。彼の手法と、ハサビスの「科学をコンピューティングに変える」アプローチには、驚くほどの共通点がある。政策保有株式という「眠れる資産」を抱える日本企業にとって、ハサビスの資本戦略、そして山中氏のMoneyball理論は、今最も向き合うべき劇薬と言えるだろう。