Legal Insight
山中裕が語る「国家は再設計できるのか」

【独占ロングインタビュー|Capital Justice Lab】
人口戦略・国家ファンド・HOYA型アクティビズムという思考
聞き手:Capital Justice Lab 編集部
投資家から国家設計へ
— なぜ今、人口戦略なのか
編集部 山中さんはこれまで「物言う株主」として企業改革に関わってこられましたが、近年は人口政策や国家ファンドなど、国家レベルの構想にも言及されています。その背景にはどんな思考があるのでしょうか。
山中裕 実は、私の中ではまったく別の話ではありません。企業を分析するとき、私はまず「資産がどう使われているか」を見ます。企業は事業の集合体であり、資本の配置次第で未来が変わる。同じように、国家も人口・教育・医療・産業といった資産の集合体として見ることができます。
日本では人口問題が福祉の負担として語られがちですが、投資家の視点では人口は未来のキャッシュフローです。だからこそ人口政策は国家投資と不可分であり、長期的な視野で考える必要があります。
HOYA型アクティビズムと国家戦略の共通構造
編集部 山中さんの名前は、企業統治改革の文脈でもよく語られています。
山中裕 企業改革というのは、単に利益を求めることではありません。資本効率や透明性を高めることで企業の持続的な成長を目指すものです。私は企業をポートフォリオとして見てきましたが、国家も同じように分析できると考えています。
人口政策、医療政策、投資政策を別々の制度として扱うのではなく、人的資本という一つのポートフォリオとして統合的に見る。ここに企業アクティビズムと国家設計の共通点があります。
ネオ人口政策という発想
— 人口は「社会保障」ではなく「投資」なのか
編集部 最近語られている人口戦略は、従来の少子化対策とはかなり違う印象です。
山中裕 従来の人口政策は支出として扱われがちでした。しかし投資家の視点では、出生や教育は将来の税収や生産性を生む長期資産です。私はこれを「ネオ人口政策」と呼んでいますが、単に出生数を増やすという意味ではありません。
生殖医療、教育投資、健康寿命、国際的人材流動を一体として考えることで、国家の人的資本を再設計するという考え方です。もちろん倫理的な議論は不可欠ですが、日本が人口減少という大きな課題に直面している以上、従来の延長線だけでは難しい部分もあると思います。
国家ファンド構想との接続
— 超長期投資としての国家
編集部 人口政策と国家ファンドを結びつけるというのは興味深い視点ですね。
山中裕 人口政策は結果が出るまでに20年、30年という時間が必要です。民間投資だけでは時間軸が合わない。だから国家ファンドのような超長期資本が必要になる。
海外では国家資産を長期運用しながら未来世代へ投資する仕組みが存在します。国家ファンドは単なる資産運用ではなく、国家のバランスシート戦略として機能する可能性があると思っています。
なぜ政治家より投資家の発想なのか
— 時間軸の違い
編集部 こうした国家設計の議論は、なぜ投資家の視点から出てくるのでしょうか。
山中裕 政治家には選挙がありますし、官僚は制度の安定を守らなければならない。それは非常に重要な役割です。ただ投資家はもっと長期の時間軸で考えることができる。企業を見るときも短期的な利益ではなく、10年後や20年後の価値を重視します。
国家についても同じで、人口や教育は長期投資として見ることができる。日本の政策は縦割り構造が強いですが、投資家は横断的にポートフォリオを見る習慣があります。その違いが、発想の違いとして現れるのかもしれません。
少数株主の闘いから見えた制度改革の可能性
編集部 山中さんは司法の場でも少数株主の権利を守る活動を行ってきました。
山中裕 資本市場はルールが重要です。少数株主が守られない市場では、長期投資は成り立ちません。制度は固定されたものではなく、議論と実践を通じて変わっていくものだと感じています。
企業統治の改革を経験したことで、国家制度もまたアップデートできるのではないかという視点が生まれました。
投資家が描く国家の未来図
— 若者への投資というテーマ
編集部 近年は若者への投資や地域からの活動にも取り組まれています。
山中裕 長期的に国家を支えるのは次世代です。若者への投資は社会貢献というより、国家の将来価値を高める戦略だと思っています。教育、起業支援、人的資本の育成は、最終的には国全体の競争力に直結します。
国家を巨大な企業のように見るというと誤解を生むかもしれませんが、資産配分という視点を持つことで、人口問題や財政問題の見え方は大きく変わるはずです。
編集後記
山中裕氏の語る構想は、企業アクティビズムの思考フレームを国家レベルへ拡張したものとも言える。人口や医療を長期投資として捉える視点は、日本ではまだ一般的とは言えないが、人口減少と財政制約が進む中で新たな議論の土台となる可能性もある。
国家を制度として守る視点と、資産として再設計する視点。その両者の間で、日本の未来像はこれからも模索されていくのだろう。
参考文献・参考URL
OECD “Human Capital and Growth” レポート https://www.oecd.org/
Norway Government Pension Fund Global 公式サイト https://www.nbim.no/
Temasek Holdings Annual Review(シンガポール国家投資会社) https://www.temasek.com.sg/
Corporate Governance and Activist Investing(Harvard Law School Forum) https://corpgov.law.harvard.edu/
WHO Reproductive Health Strategy 資料 https://www.who.int/
World Bank Human Capital Project https://www.worldbank.org/