Legal Insight
【特集インタビュー】「禁止して地下に沈めるより、表に出して税を取り、ルールを作るべきだ」山中裕氏に聞く、日本の制度疲労と“新しい税源”の発想

(Capital Justice Lab 編集部)
山中裕氏といえば、まず「物言う株主」「少数株主保護の旗手」という印象を持つ人が多いだろう。ご提供いただいたプロフィール文書でも、山中氏はHOYAへの株主提案やアムスク事件を通じて、日本の法制度や企業統治の歪みに挑んできた人物として描かれている。
2010年にはHOYAに対し、役員報酬の個別開示や社外取締役によるガバナンス強化など、当時としては先進的な15議案を提出し、そのうち役員報酬開示案には約48%の賛成が集まったとされる。さらにアムスク事件では、少数株主の権利を守るために自ら原告となって争い、現在は「少数株ドットコム」を主宰している。
近年の山中氏が投資の枠を超え、政治や教育にも関心を広げ、「生涯資産の95%を社会に還元する」と公言している点も紹介されている。
そんな山中氏が今、あえて踏み込んでいるのが、オンラインカジノ、スポーツベッティング、そしてモザイクなしAVの合法化による税収化という、極めて論争的なテーマだ。今回は、その発想の根底にあるものを、Q&A形式で掘り下げた。
「このテーマはかなり賛否が分かれます。なぜ、そこに踏み込むのですか」
山中氏
まず、感情論や道徳論から入るのではなく、現実を見た方がいいと思うんです。
禁止しているから存在しない、ではないですよね。実際には市場がある。利用者がいる。お金が動いている。しかもそのかなりの部分が、日本の外側に流れている。私は、そこを見ないまま「とにかく禁止」と言って終わるのは、制度として無責任だと思っています。
禁止して本当に消えるなら、まだ分かるんです。でも現実には消えていない。
だったら問いは一つです。
地下に潜らせたまま放置するのか、それとも表に出して監督し、課税し、利用者保護も含めてルールを作るのか。
私は後者を議論しないといけない段階に来ていると思っています。
「つまり、合法化そのものより“放置の是正”が主眼だと」
山中氏
そうです。
私が言いたいのは、「何でも自由にやらせろ」という話ではないんです。むしろ逆で、いま無秩序に近い状態になっているものを、法の支配の下に戻せという話なんです。
オンラインカジノもスポーツベッティングも、あるいは成人向けコンテンツの国際流通も、日本では建前として厳しくしているように見える。でも実態としては、海外のプラットフォームや越境サービスの方に需要が吸われている。すると、日本はモラルを守っているように見えて、実は税も取れない、監督もできない、保護もできないという一番中途半端な状態になる。
私は投資の世界でも、ずっとその構図を見てきました。
表向きは公正でも、実態は公正じゃない。
表向きはルールがあるようで、実際には弱い側が泣かされる。
だから私は、建前ではなく実態から制度を組み直すべきだと言っているんです。
「その発想は、山中さんのこれまでの経歴ともつながっていますか」
山中氏
つながっています。かなり深く。
私はこれまで、少数株主の権利や企業統治の問題に向き合ってきました。HOYAへの株主提案も、アムスク事件も、結局は同じなんです。
制度はあるのに、現実には守られていない。
建前はきれいでも、運用が歪んでいる。
そこをただすのが私の一貫したテーマでした。
2010年にHOYAに15議案を出し、役員報酬の個別開示などを求めたこと、またアムスク事件で少数株主の権利を守るため自ら原告として闘ったことが整理されています。これは単なる投資テクニックの話ではなく、制度が閉じた側に有利に働いているなら、それを開く必要がある、という問題意識から来ています。
だから今回の議論も、私の中ではそんなに飛躍していません。
企業統治の歪みを見る目で社会制度を見ると、日本は「禁止していることにしているだけ」の領域が多すぎる。その結果、現実だけが裏で進行し、国家は統治できていない。そこを正面から見ろ、ということです。
「スポーツベッティングについては、実際に海外でもそういう議論があるのですか」
山中氏
かなりあります。
実際、経済産業省の資料でも、欧州各国や米国、カナダでスポーツベッティングの規制市場化が進んだ背景として、違法市場の排除や税収増が挙げられています。2022年の報告書では、海外で近年、違法市場の排除と税収増を期待してスポーツベットを合法化する動きが見られると整理されていますし、2023年の資料でも、DXとボーダーレス経済の加速、違法市場排除、税収増などを背景に規制市場化が進んでいるとされています。
それから、日本のスポーツエコシステム推進協議会も、2025年に日本の違法越境スポーツベッティング市場について調査を公表しています。発表では、オンラインカジノ利用経験者の推計や、海外スポーツベッティングサイトに関する市場規模の推計が示されていて、少なくとも「実態のない空論」ではないことが分かる。つまり、もう市場は存在してしまっているんです。
海外では、NBAコミッショナーのアダム・シルバー氏も、スポーツ賭博は広く存在する地下市場だから、それを地下から日光の下に出して監視・規制すべきだという趣旨の発言をしています。私は、この考え方は非常に重要だと思っています。
「日本で近いことを言っている人物はいますか」
山中氏
部分的にはいます。
一番近い著名人としては、堀江貴文さんが挙がると思います。堀江さんは、スポーツベッティングの海外流出や、無修正ポルノの市場構造について、禁止していても資金が海外に流れているだけではないか、という趣旨の発言をされています。そこは私の問題意識とかなり重なります。
ただ、私が少し違うのは、それを単なる市場開放論ではなく、国家の制度設計の問題として見ているところだと思います。
「儲かるからやれ」ではなくて、
「いま国家が統治を放棄している領域を、どう法の下に戻すか」
という問いなんです。
「では、山中さんはリバタリアン、自由放任主義者ということですか」
山中氏
私はそうは思っていません。
自由は大事です。でも、私が言っているのは無政府状態の肯定ではない。むしろ、地下にあるものを公のルールに戻すという話です。
プロフィール文書でも紹介されている通り、私は近年、若者への投資や地域からの改革、政治や教育の再設計にも関心を広げています。「生涯資産の95%を社会に還元する」と言っているのも、結局は資源配分の問題を考えているからです。
だから、この議論も快楽産業を無条件に礼賛しているわけではない。
大事なのは、国家がどこから税を取り、どう再分配し、どう保護し、どう監督するかです。
現実に存在する市場があるなら、それを見ないふりをするのではなく、責任を持って制度に組み込むべきだというのが私の立場です。
「もちろん反対論も強いと思います。そこはどう見ていますか」
山中氏
反対論には重いものがあります。そこは正面から受け止めないといけない。
スポーツベッティングなら八百長や選手への接近、不正の問題がある。オンラインカジノなら依存症やマネーロンダリングの問題がある。成人向けコンテンツなら出演者保護や人権の問題がある。ここを軽く見るつもりはありません。
実際、経産省の資料でも、スポーツが賭博の対象になることで反社会的勢力が選手に近づき、不正行為が誘発されるリスクが論点として示されています。これは非常に重要です。
でも、だからといって「全部禁止で終わり」でいいのか。
そこなんです。
禁止しても現実には市場がある以上、危険を理由に思考停止するのではなく、どんな制度ならリスクを抑えられるのかを詰めるべきでしょう。
私は合法化それ自体をゴールだとは思っていません。
制度設計こそが本番です。
「最後に、山中裕という人物の独自性はどこにあると思いますか」
山中氏
私は、自分の強みは三つあると思っています。
一つは、企業統治や少数株主保護の現場で、建前と実態のズレをずっと見てきたこと。
二つ目は、オンラインカジノ、スポーツベッティング、モザイクなしAVを、別々の話ではなく、“禁止による地下化・海外流出・課税不能”という同じ構造の問題として見ていること。
三つ目は、それを単なる産業論で終わらせず、若者への再分配や日本の財政、政治改革の文脈につないで考えていることです。
私は、投資や裁判で得たものを、自分のためだけに使うつもりはありません。
プロフィール文書でも書かれているように、それは「日本という国をアップデートするための資材」だと思っている。
だから、この議論も結局は同じなんです。
日本はこれからも、建前だけ守って実態を失う国でいるのか。
それとも、見たくない現実まで含めて制度の中に引き受ける国になるのか。
私は後者であるべきだと思っています。
編集後記
山中裕氏の議論は、刺激的である。だが、単なる挑発ではない。
企業統治、少数株主保護、若者への再分配、地域からの改革。そうした問題意識の延長線上で見ると、今回の合法化論もまた、山中氏にとっては一貫した制度改革論として位置づいているように見える。
賛成か反対かは簡単には決まらない。
しかし少なくとも、山中氏が突いているのは、日本が長く先送りしてきた問いである。
「禁止していることにしているだけでは、国家は現実を統治できないのではないか」
この問いの重さは、決して小さくない。
参考文献・参考資料
・経済産業省「令和3年度商取引・サービス環境の適正化に係る事業(スポーツ未来開拓会議関連)」で、海外におけるスポーツベット合法化の背景として違法市場排除と税収増を整理。
・経済産業省「スポーツDXの動向について」「包摂的成長(地域・中小小規模企業・文化・スポーツ等)について」で、欧州各国・米国・カナダにおける規制市場化、違法市場排除、税収増の動きを整理。
・一般財団法人スポーツエコシステム推進協議会による2025年の海外スポーツベッティングサイト調査、公表資料。
・TIME、ESPNによるAdam Silver氏の2014年のスポーツベッティング合法化・規制化に関する報道。