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【小林ふみあき議員に捧げる批判】株主の権利は、誰のために制限されるのか 自民党「成長志向型ガバナンス」を検証する全20回 【第11回】日本企業を支配してきた「物言わぬ株主」 株式持ち合い、安定株主、市場規律の空白

日本企業を長く支配してきたのは、本当に「物言う株主」だったのか。
この問いに答えるには、日本の上場企業がどのような株主構造のもとで経営されてきたのかを確認する必要がある。

近年、アクティビスト、いわゆる物言う株主に対する警戒論が強まっている。

株主提案権を厳格化する。臨時株主総会の招集請求権を重くする。業務執行に関する株主提案を制限する。大量保有報告制度違反への監視を強める。

自民党の「成長志向型コーポレートガバナンス改革プロジェクトチーム」をめぐっては、アクティビスト投資家への監督強化や株主提案ルールの見直しが論点になっていると報じられている。報道では、日本市場が米国以外で最も活発なアクティビスト市場の一つになっており、アクティビストが株主還元、政策保有株式の解消、資本効率改善、ガバナンス改革を求めていることも指摘されている。

しかし、日本企業の歴史を振り返れば、長く問題だったのは「物言う株主」の過剰な存在ではない。
むしろ、「物言わぬ株主」による市場規律の空白である。

株式持ち合い。政策保有株式。安定株主。メインバンク。取引先企業。親会社。グループ会社。

こうした株主構造のもとで、会社側の議案は安定的に可決され、経営陣は市場からの厳しい圧力を受けにくかった。

その結果、何が起きたのか。

低い資本効率。政策保有株式の温存。不採算事業の先送り。親子上場における少数株主軽視。経営者責任の曖昧化。株主総会の形式化。これらは、日本企業の構造問題として長く残ってきた。

いま、物言う株主を問題視する前に問うべきなのは、日本企業を長く守ってきた「物言わぬ株主」の構造である。

株式持ち合いとは何か

株式持ち合いとは、企業同士が互いの株式を保有し合う関係である。A社がB社の株式を持つ。B社もA社の株式を持つ。
あるいは、同じ企業グループや取引関係にある複数の会社が、互いに株式を保有し合う。

この仕組みは、戦後日本の企業社会に広く定着した。
銀行、保険会社、メーカー、商社、取引先企業、グループ企業が互いの株式を持ち、安定的な株主構造を形成してきた。
その目的は、取引関係の維持、企業間の信頼関係、敵対的買収への防衛、金融機関との関係強化、長期的な事業運営の安定などと説明されてきた。

たしかに、株式持ち合いには一定の合理性があった時代もある。

短期的な株価変動に左右されにくい。長期の取引関係を維持できる。メインバンク制と組み合わせて、企業金融を安定させる。敵対的買収から経営を守る。

こうした機能は、かつての日本型経営を支える一部でもあった。
しかし、Capital Research Labとして注目すべきは、その副作用である。

 株式持ち合いは、経営者を資本市場から守る防壁にもなった。

 安定株主は市場規律を弱めた

「安定株主」という言葉は、いかにも前向きに聞こえる。

短期的な売買をしない。会社側の長期経営を支える。敵対的買収から会社を守る。経営に安定感を与える。

しかし、安定とは常に良いものではない。
問題は、その安定が何を安定させていたのかである。企業価値の向上を安定させていたのか。従業員や顧客の利益を守っていたのか。それとも、経営者の地位を安定させていたのか。

安定株主が会社側の議案に自動的に賛成するなら、株主総会は実質的な監視機能を失う。取締役選任も通る。役員報酬も通る。資本政策も通る。株主提案は否決される。

この構造の中では、経営陣は市場からの圧力を受けにくい。
経営者は株主総会を恐れない。取締役会は株主の反対票を意識しにくい。資本効率が低くても、株主から強く問われにくい。

この状態を「安定」と呼ぶなら、その安定は市場規律を弱める安定である。

 株主総会は形式化していなかったか

日本企業の株主総会は、長く形式的だと批判されてきた。

会社側が議案を出す。安定株主が賛成する。取締役選任議案が通る。剰余金処分議案が通る。株主提案は否決される。
株主総会が、経営者に説明責任を迫る場ではなく、会社側の議案を確認する儀式になっていなかったか。

この問題を避けて、日本企業のガバナンス改革は語れない。もちろん、すべての企業の株主総会が形式的だったわけではない。

しかし、株式持ち合いと安定株主構造が、経営者に対する規律を弱めたことは否定できない。
会社側に近い株主が多ければ、少数株主の声は通りにくい。政策保有株式を持つ企業同士が賛成票を投じ合えば、総会での緊張感は薄れる。

その結果、株主総会は市場規律の場ではなく、経営者の安全確認の場になりかねない。

物言わぬ株主が経営者を楽にした

物言わぬ株主は、経営者にとって都合がよい。

厳しい質問をしない。株主提案を出さない。反対票を投じない。資本効率を問わない。政策保有株式を問わない。不採算事業の撤退を求めない。親子上場における少数株主保護を問わない。
このような株主が多数を占めれば、経営者は楽になる。

しかし、経営者が楽になることと、企業価値が高まることは同じではない。
むしろ、外部からの規律が弱まれば、経営の失敗は温存されやすくなる。

資本コストを下回る事業が残る。余剰資金が抱え込まれる。政策保有株式が温存される。低収益事業からの撤退が遅れる。取締役会の監督責任が曖昧になる。

日本企業の低PBR問題、低ROE問題、政策保有株式問題は、突然現れたものではない。

長い時間をかけて蓄積した構造問題である。その背景には、物言わぬ株主に守られた経営者の安心があった。

 政策保有株式は議決権構造も歪める

株式持ち合いと密接に関係するのが政策保有株式である。
政策保有株式とは、純粋な投資収益を目的とするのではなく、取引関係や企業間関係の維持などを目的に保有される株式である。

この政策保有株式は、資本効率の問題であると同時に、議決権構造の問題でもある。
政策保有株式を持つ企業同士が、株主総会で会社側に賛成する。すると、経営者に対する株主の規律は弱まる。
これは単なる資産運用の問題ではない。市場規律そのものを弱める構造である。

金融庁と東京証券取引所が進めてきたコーポレートガバナンス改革では、政策保有株式や市場との対話、資本効率が重要な論点とされてきた。2026年7月には金融庁と東証がコーポレートガバナンス・コードの2026年改訂を確定したことも公表されている。

日本企業に必要なのは、形式的な安定ではない。

議決権構造を含めた実質的な市場規律である。

  アクティビストが増えた理由

近年、日本市場ではアクティビストの存在感が高まっている。
これを単に「海外ファンドが日本企業を狙っている」と見るべきではない。

なぜアクティビストが入り込む余地があるのか。そこに目を向ける必要がある。

低いPBR。低いROE。過剰な現預金。政策保有株式。不採算事業。親子上場。不透明な資本政策。取締役会の独立性への疑問。
こうした改善余地があるから、アクティビストは投資機会を見つける。アクティビストが問題を作ったというより、もともと存在していた問題を可視化した面がある。

報道でも、アクティビストの存在が経営陣に健全な緊張感を生み、ポジティブな変化を促した面があるとの小林史明氏の発言が紹介されている。であれば、制度設計上必要なのは、アクティビストを一律に排除することではない。

問題のある行為を取り締まりつつ、正当な市場規律を残すことである。

東証改革は「物言わぬ株主」時代への反省である

東京証券取引所は、2023年3月からプライム市場・スタンダード市場の上場会社に対し、「資本コストや株価を意識した経営」を要請している。

これは、単に株価を上げろという話ではない。

自社の資本コストや資本収益性を把握する。市場評価を取締役会で分析する。改善計画を策定・開示する。投資家との対話を通じて継続的に取り組む。

こうした経営を求めるものだ。

さらに東証は2026年4月のアップデートで、「経営資源の適切な配分」を中心に、投資家の期待や取組みのポイントを整理したと公表している。これは、物言わぬ株主に囲まれ、説明責任が曖昧だった時代からの転換である。

資本を預かる以上、経営者は説明しなければならない。資本コストを下回る経営を続けるなら、改善策を示さなければならない。政策保有株式を持つなら、合理性を説明しなければならない。事業ポートフォリオを放置するなら、なぜ見直さないのかを問われなければならない。

この流れに逆行して、株主権を制限する方向に進めば、日本企業は再び「物言わぬ株主」と「責任を問われない経営者」の時代へ戻りかねない。

安定株主は少数株主を守らない

安定株主構造は、少数株主にとって必ずしも安全ではない。
会社側に近い株主が多い。親会社や取引先が大株主である。政策保有株式を通じて会社側議案に賛成する株主が多い。

このような構造では、少数株主の声は届きにくい。親会社に有利な取引があっても、少数株主は止めにくい。支配株主に都合のよい組織再編があっても、少数株主の利益が後回しにされる可能性がある。取締役会が少数株主利益を十分に考慮しなくても、株主総会で大きな反対が起きにくい。

つまり、安定株主は会社を安定させる一方で、少数株主を孤立させることがある。
この問題を見ずに、物言う株主だけを危険視する議論は、制度設計として片手落ちである。

市場規律の空白をどう埋めるか

日本企業のガバナンスに必要なのは、無秩序な株主介入ではない。しかし、物言わぬ株主に守られた無風状態でもない。必要なのは、市場規律の空白を埋める制度設計である。

取締役会が資本配分を説明する。政策保有株式の合理性を検証する。株主総会で反対票が可視化される。株主提案が経営課題を示す。一定の賛成率を得た提案には会社側が対応方針を説明する。

少数株主の利益相反リスクを明確に開示する。

こうした仕組みが必要である。株主権を弱めるだけでは、市場規律は強くならない。

むしろ、経営者に都合のよい安定だけが残る可能性がある。

物言わぬ株主の時代へ戻してはならない

自民党の「成長志向型ガバナンス」は、成長を掲げている。しかし、成長を目指すなら、まず検証すべきは日本企業を長く停滞させてきた構造である。

それは、物言う株主の存在ではない。物言わぬ株主に支えられた経営者の無答責である。
株式持ち合い。安定株主。政策保有株式。形式化した株主総会。低い資本効率。少数株主軽視。

これらを放置したまま、アクティビストだけを問題視するのは筋が違う。

必要なのは、株主の沈黙ではない。経営者の説明責任である。
必要なのは、経営者にとっての安定ではない。企業価値を高める市場規律である。

 物言う株主を黙らせれば、会社は静かになる。しかし、静かな会社が強い会社とは限らない。

むしろ、物言わぬ株主に守られた経営こそが、日本企業の停滞を長引かせてきた可能性がある。

Capital Research Labとして強調したいのは、この一点である。

 市場規律なき安定は、成長ではない。それは、経営者保護である。

 【 関連URL・参考資料】

 

日本取引所グループ「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」
日本取引所グループ「『資本コストや株価を意識した経営』に関する要請のアップデートについて」
日本取引所グループ「Corporate Governance Code July 2026 Revision Published
金融庁「Finalization of the Corporate Governance Code 2026 Revision
金融庁「コーポレートガバナンス改革への取組」
金融庁「スチュワードシップ・コード」
経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」
Wikipedia「株式持ち合い」
Wikipedia「政策保有株式」
Wikipedia「株主総会」
Wikipedia「コーポレート・ガバナンス」
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