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【小林ふみあき議員に問う】株主権を削る改革は、本当に「成長戦略」なのか 自民党「成長志向型ガバナンス」を検証する【続編・第21回】 会社法改正・対案編 企業を守る制度から、「市場への信頼」を守る制度へ 少数株主を守ることこそ、日本市場の競争力を高めるのではないか

日本企業の成長力を高めるために、コーポレートガバナンスをどう変えるべきなのか。この問いそのものに異論はない。問題は、その「成長」のために、誰の権利を強くし、誰の権利を弱くするのかである。

自民党の成長志向型コーポレートガバナンスPTは2026年7月29日に公表した提言で、アクティビストを一律に規制する考えではないと明記した。むしろ、アクティビストによる株主提案が経営者への規律を強化し、企業の成長力を高め得ることを認めている。その一方で、株主提案権については「300個」の個数要件を廃止し、1%の割合要件へ一本化することなどを検討すべきだとしたほか、定款変更を利用した業務執行事項に関する株主提案の制限も論点として掲げている。

ここに、第21回以降で考えなければならない問題がある。これまでは、「株主の権利を狭めてよいのか」という批判を中心に検証してきた。しかし、批判だけでは制度は変わらない。ここから必要なのは、では、どのような会社法なら日本企業の成長と少数株主保護を両立できるのかという「対案」である。


■少数株主保護は「企業への制約」なのか


企業経営者の立場から見れば、株主提案への対応にはコストがかかる。大量の提案が提出されれば、取締役会や事務局は対応を迫られる。企業秘密へのアクセスや濫用的な権利行使についても、一定のルールが必要なのは当然である。
したがって、「株主の権利は一切制限してはならない」という議論ではない。
しかし、ここで注意しなければならない。一部の濫用事例を理由として、普通の株主が権利を行使する入口まで狭くしてしまえば、それは別の問題を生む。
資本市場とは、単に企業が資金を調達する場所ではない。投資家が、「この経営戦略は本当に正しいのか」「余剰資金をどう使うのか」「取締役は株主に説明責任を果たしているのか」と問いかける場所でもある。その仕組みを弱めれば、経営者への市場規律も弱くなる。


■政府自身が「企業と投資家の対話」を推進してきた


ここには、日本の政策そのものが抱える矛盾がある。
金融庁は、日本版スチュワードシップ・コードを通じて、機関投資家と企業との「建設的な対話」を促進してきた。2025年6月には第三次改訂版が確定し、投資家が企業との対話を通じて持続的成長を促すという基本的方向性は維持されている。
さらに金融庁の「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」は、企業と投資家の間に、「緊張感ある信頼関係」を構築することを掲げた。
東京証券取引所も2026年7月にコーポレートガバナンス・コードを改訂している。上場企業には、形式的な制度対応ではなく、企業価値向上につながる実効的なガバナンスが求められている。
つまり、日本は約10年以上をかけて、経営者だけで会社を統治する時代から、株主との対話によって企業価値を高める時代へ進んできたのである。
それなのに、会社法の側で株主が声を上げるハードルを高くするのであれば、政策全体として整合しているのかを問わなければならない。


■必要なのは「株主規制」より「行為規制」ではないか


ここで対案の第一歩が見えてくる。
規制すべきなのは、「誰が株主なのか」ではなく、「何をしたのか」ではないだろうか。
相場操縦があれば取り締まる。インサイダー取引があれば取り締まる。大量保有報告制度に違反すれば、適切に執行する。共同保有者に関する開示義務を潜脱しているのであれば、制度を明確化する。
実際、金融庁は大量保有報告制度における「重要提案行為等」や「共同保有者」の範囲を整理し、投資家と企業の建設的な対話を妨げない形で透明性を高めようとしている。
この方向なら、悪質な行為を抑えながら、正当な株主活動を守ることができる。
巨大ファンドも個人株主も一律に入口で排除するのではなく、不正行為そのものを捕捉する制度へ転換する。その方が市場原理にも整合的である。


■「1%」という数字だけでは公平にならない


特に慎重な検討が必要なのが、株主提案権の保有要件である。
法務省資料によれば、取締役会設置会社では現在、原則として「1%以上」または「300個以上」の議決権を一定期間保有する株主に株主提案権が認められている。
現在の会社法見直しでは、この「300個」の個数要件について廃止や引上げが検討対象となっている。
しかし、1%に一本化するとどうなるか。時価総額の巨大な企業ほど、必要な投資額は莫大になる。
その結果、巨大な機関投資家には提案権が残り、中小ファンドや個人投資家には手が届かなくなる。
つまり、「悪質な巨大アクティビスト対策」のつもりが、巨大投資家だけが権利を行使できる制度になるという逆転現象さえ起こり得る。
これは制度設計として慎重に検証する必要がある。


■会社法改正の目的を逆転させてはいけない


会社法は、経営者が経営しやすくするためだけに存在する法律ではない。取締役、支配株主、一般株主、債権者など、異なる利害を調整しながら株式会社という制度を機能させるためのルールである。
だからこそ、「経営者にとって面倒だから株主権を弱くする」という発想だけで制度を作るべきではない。
むしろ考えるべきなのは、経営者が大胆な経営判断をできることと、株主が経営者を監視できることを、どう両立させるかである。
経営者に自由を与える。しかし、その代わり説明責任を強くする。
株主には発言する権利を保障する。しかし、虚偽開示や市場操作などの違法行為は厳格に取り締まる。
このバランスこそ、本来の「成長志向型ガバナンス」ではないだろうか。


■少数株主保護は、日本市場への投資を呼び込むインフラである


少数株主保護を「経営の邪魔」と捉えること自体を、見直す必要がある。
投資家が株式を購入するのは、その会社の経営権を持っていないにもかかわらず、自分の資金を企業に委ねる行為でもある。
だからこそ、議決権がある。株主総会がある。株主提案権がある。取締役を選任する権利がある。会社から情報開示を受ける仕組みがある。
こうした制度が機能しているから、支配権を持たない投資家でも安心して市場に資金を提供できる。
つまり、少数株主保護は、単なる「株主サービス」ではない。
それは、資本市場にお金を呼び込むための基礎インフラなのである。
この視点に立てば、会社法改正で最初に問うべきことも変わる。
「どうすれば株主提案を減らせるか」ではない。
「どうすれば株主が安心して日本企業に資金を出せるか」である。


■第21回から「対案編」へ


第20回まで、Capital Research Labでは、自民党が進める「成長志向型ガバナンス」と株主権制限の問題を検証してきた。
第21回からは、その先へ進みたい。
批判だけではなく、では、どんな会社法に変えるべきなのか。
株主提案権。少数株主保護。支配株主との利益相反。スクイーズアウト。TOB。第三者割当増資。取締役の説明責任。情報開示。違法なアクティビズムへの法執行。
こうしたテーマを一つずつ取り上げ、「経営者を守る会社法」でも「アクティビストを守る会社法」でもない。普通の投資家が安心して資本市場に参加できる会社法とは何か。それを考えていく。
日本市場を成長させたいのであれば、株主を黙らせる制度ではなく、株主が安心して声を上げられる制度をつくること。そこから始めるべきではないだろうか。


【関連URL・参考資料】


自由民主党「企業価値を伸ばし続けるガバナンス改革への提言」
※2026年7月29日公表の提言本文。成長志向型ガバナンス、経営力向上、制度のイコールフッティング、法執行強化の文脈で使えます。
法務省「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」
※会社法改正、株主総会、株主提案権、株式制度の見直しに関する公式資料として使えます。
金融庁「スチュワードシップ・コード(第三次改訂版)の確定について」
※「責任ある機関投資家」と企業との対話、投資と対話を通じた持続的成長という論点に使えます。
金融庁「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」
※企業と投資家の「緊張感ある信頼関係」に基づく対話という、今回の記事の中心論点に使いやすい資料です。
日本取引所グループ「コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)の公表について」
※2026年7月21日施行のコーポレートガバナンス・コード改訂。成長投資、実効的ガバナンス、上場会社への要請の文脈で使えます。
Wikipedia「株主提案権」

会社に意見を言えるのは「4億円持つ人」だけ?─株主提案権の制限に反対します