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【小林ふみあき議員に捧げる批判】株主の権利は、誰のために制限されるのか 自民党「成長志向型ガバナンス」を検証する全20回 【第17回】5%要件は巨大ファンドを排除できるのか 苦しくなるのは、むしろ中小の投資家ではないか

制度改革を評価するとき、見るべきものは理念ではない。
実際の効果である。
誰が行使できなくなるのか。誰が提案できなくなるのか。誰が臨時株主総会を請求できなくなるのか。誰が取締役会に説明を迫れなくなるのか。誰がTOB価格や政策保有株式に異議を唱えにくくなるのか。
この問いを抜きにして、株主権の制限を論じることはできない。
自民党の「成長志向型コーポレートガバナンス改革」をめぐっては、アクティビストによる過度な要求や短期主義への対応を理由に、株主提案権や臨時株主総会の招集請求権の見直しが議論されている。
ロイターは、現行の株主提案制度について、取締役会設置会社では、6か月以上、議決権1%以上または300個以上の議決権を保有する株主が提案できると説明したうえで、経済界側には1%要件を5%へ引き上げる案や、業務執行に関する提案を制限する案があると報じている。また、会社法303条は、取締役会設置会社において、総株主の議決権の100分の1以上、または300個以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主に、一定事項を株主総会の目的とするよう請求する権利を認めている。
一方、会社法297条は、総株主の議決権の3%以上を6か月前から引き続き有する株主に、取締役に対して株主総会の招集を請求できる権利を認めている。ここで問うべきは、単純である。
1%から5%へ引き上げることは、誰を排除するのか。3%から5%へ引き上げることは、誰の緊急対応能力を奪うのか。300個要件を廃止することは、誰の提案権を失わせるのか。それは本当に巨大ファンド対策なのか。それとも、中小投資家と少数株主の制度的排除なのか。
5%は単なる数字ではない
5%という数字は、見た目には小さい。しかし、上場会社の時価総額に当てはめれば、その重みはまったく違う。
時価総額1,000億円の会社で5%を保有するには、単純計算で50億円が必要になる。時価総額5,000億円なら250億円。時価総額1兆円なら500億円。時価総額5兆円なら2,500億円である。これは、普通の個人株主が到達できる水準ではない。中小の機関投資家にとっても重い。独立系運用会社にとっても、ポートフォリオの集中リスクを考えれば簡単ではない。
つまり、5%要件は、単なる手続要件ではない。
資本量による選別である。株主提案権を「株主の権利」から「資金力のある大株主の権利」へ変質させる可能性がある。制度上はすべての株主に同じ要件を課しているように見える。しかし、実質的には、資金力のない株主を排除する。
これが5%要件の本質である。
巨大ファンドは本当に排除されるのか
5%要件は、巨大ファンド対策として語られる。しかし、巨大ファンドは本当に排除されるのか。
巨大ファンドには資金力がある。弁護士を使える。投資銀行を使える。PR会社を使える。議決権行使助言会社と対話できる。他の機関投資家へ働きかけることができる。会社と直接交渉することもできる。もちろん、5%の保有は巨大ファンドにとっても負担である。株価変動リスクもある。流動性リスクもある。大量保有報告制度との関係もある。
しかし、それでも巨大ファンドは、資金力と専門家ネットワークによって対応できる可能性が高い。むしろ、本当に排除されるのは、5%を持てない中小投資家である。
この点について、The Japan Timesは、Oasis Managementのセス・フィッシャー氏が、日本の株主提案権の制限はアクティビストよりも個人投資家を害すると指摘したことを報じている。同記事では、同氏が、大規模アクティビストは通常5%、10%、15%、20%といった保有比率で提案することがある一方、影響を受けるのは小さな株主だという趣旨を述べたことも紹介されている。
この指摘は重要である。制度改革は、名目上は巨大ファンドを標的にしている。
しかし、制度効果としては、普通の株主を締め出す可能性がある。
300個要件の意味
300個要件は、日本の株主提案制度において、重要な役割を持ってきた。会社法303条は、1%以上の議決権という相対基準に加えて、300個以上の議決権という絶対基準を置いている。この絶対基準があるから、大企業においても、一定規模の株式を保有する株主が提案権を行使できる。
もし1%要件だけになれば、大企業ほど株主提案のハードルは跳ね上がる。時価総額の大きい会社では、1%を持つだけでも莫大な資金が必要になる。そこからさらに5%へ引き上げるなら、株主提案権は実質的に大株主専用の権利になる。もちろん、300個要件が濫用される可能性はある。
会社の目的と関係の薄い提案。嫌がらせに近い提案。同一内容を繰り返す提案。会社に過度な事務負担をかける提案。こうしたものには対応が必要である。しかし、濫用防止のために、300個要件そのものをなくすべきなのか。
本当に必要なのは、提案の中身、目的、利益相反、反復性、会社への過度な負担を精査する制度ではないのか。
入口を狭めれば、濫用的な提案だけでなく、正当な提案も排除される。
制度設計として、これは過剰である。
臨時株主総会の5%化は、緊急時の規律を弱める
臨時株主総会の招集請求権は、平時の制度ではない。重大な経営問題が起きたとき、次の定時株主総会まで待てない場合に意味を持つ。
経営トップの責任問題。重大な不祥事。支配株主との利益相反取引。不利なTOBや組織再編。取締役会の機能不全。大規模な資本政策。こうした局面で、少数株主が臨時株主総会を求めることには、ガバナンス上の意味がある。
現行会社法297条は、総株主の議決権3%以上を6か月前から引き続き保有する株主に、株主総会の招集請求権を認めている。
これを5%へ引き上げれば、何が起こるか。少数株主が緊急時に動きにくくなる。中小投資家の連携が難しくなる。取締役会に対する圧力が弱まる。支配株主や現経営陣にとって、不都合な株主総会を避けやすくなる。
臨時株主総会は、会社を混乱させるための制度ではない。
取締役会が重大な問題に向き合わない場合に、株主が市場規律を働かせる制度である。
その権利を重くすれば、緊急時のガバナンスは弱まる。
共同保有規制との組み合わせで、少数株主はさらに動きにくくなる
5%要件の影響は、単独保有の問題だけではない。少数株主が単独で5%を保有できない場合、複数の株主が連携する必要がある。
しかし、複数の株主が連携すれば、共同保有や協調行動の問題が生じる。大量保有報告制度との関係も問題になる。
他の投資家とどこまで協議できるのか。共同保有者と見なされるのか。実質的な協調行動と評価されるのか。
こうした不確実性があると、少数株主は萎縮する。一方で、会社側には安定株主が存在する。
取引先。金融機関。グループ会社。親会社。政策保有株式を持つ企業。これらの株主は、会社側議案に賛成しやすい。つまり、物言わぬ株主は残る。物言う株主だけが動きにくくなる。
この非対称性こそ、5%要件の制度的リスクである。
入口規制は、市場規律を弱める
株主提案権や臨時株主総会請求権は、単なる手続権ではない。市場規律の入口である。
株主提案があるから、取締役会は資本配分を説明する。反対票があるから、経営者は信任の低下を意識する。臨時株主総会の可能性があるから、取締役会は重大問題を放置できない。TOB価格への異議があるから、買い手側は少数株主の支持を意識する。
政策保有株式の縮減提案があるから、会社は保有合理性を説明する。これらは、会社にとって不快かもしれない。しかし、不快であることと、不当であることは違う。
市場規律は、不快だから意味がある。経営者にとって都合のよい株主だけが残る市場では、資本効率は改善しない。締役会に不都合な提案が出にくい市場では、説明責任は弱まる。
支配株主に異議を唱えにくい市場では、少数株主保護は後退する。
第13回・第14回の実例が示したもの
第13回では、KADOKAWA株主総会を取り上げた。
経営トップの再任は可決されたが、賛成率は59.68%にとどまった。ロイターは、夏野剛氏の支持率が前年の約90%から59.68%へ大きく低下したと報じている。
可決か否決かだけを見れば、会社側の勝利である。しかし、議決権行使結果の情報価値はそこではない。約4割の反対・棄権が存在したことは、経営トップへの信任が揺らいでいることを示す市場シグナルである。
第14回では、豊田自動織機の非公開化を取り上げた。ロイターは、トヨタグループによる豊田自動織機のTOBについて、エリオット・インベストメント・マネジメントが以前の提案を低すぎるとして拒否し、最終的に20,600円へ引き上げられた後に応募へ合意したと報じている。
ここで示されたのは、価格への異議が少数株主保護に関わるという事実である。反対票は、企業攻撃ではない。TOB価格への異議は、妨害ではない。株主提案は、経営破壊ではない。それらは、市場規律の一部である。
この入口を5%要件で狭めるなら、得をするのは誰か。
現経営陣である。支配株主である。親会社である。安定株主である。
一方、失うのは少数株主である。
中小投資家の排除は、資本市場の厚みを損なう
資本市場には、多様な投資家が必要である。巨大ファンドだけではない。
年金基金。投資信託。独立系運用会社。中小の機関投資家。個人株主。長期保有の株主。企業価値の改善に関心を持つ少数株主。
これらの多様な投資家が、異なる視点から会社を評価する。その多様性が、市場の厚みを作る。5%要件によって、株主提案権が大資本だけの権利になれば、市場の厚みは失われる。
巨大ファンドは残る。会社側に近い安定株主も残る。しかし、中間層の投資家が声を上げにくくなる。
これは、市場規律の偏りを生む。
アクティビスト規制を掲げながら、結果として巨大ファンドと会社側大株主だけが残るなら、それは制度設計として逆効果である。
「成長投資」は株主沈黙の理由にならない
5%要件を正当化する議論では、成長投資が語られる。アクティビストが株主還元を求めすぎる。その結果、研究開発や人的資本投資が阻害される。
だから、株主の圧力を抑える必要がある。この問題意識には、一定の合理性がある。過度な短期主義は、企業の長期競争力を損なう可能性がある。しかし、成長投資は、株主沈黙の理由にはならない。
本当に成長投資をするなら、経営者は説明すべきである。どこに投資するのか。いくら投資するのか。期待リターンはどの程度か。資本コストを上回るのか。検証時期はいつか。失敗した場合の撤退基準は何か。役員報酬や経営責任とどう連動するのか。
東京証券取引所は、上場会社に対して、資本コストや資本収益性を把握し、市場評価を分析し、改善計画を開示し、投資家との対話を進めることを求めている。この流れの中で、株主の提案権だけを重くするのは、改革の方向性と矛盾する。市場に説明せよと言いながら、説明を求める株主の権利を弱める。
これは、成長志向ではない。説明責任の後退である。
本当に必要なのは、5%要件ではない
本当に必要なのは、5%要件ではない。必要なのは、問題行為への執行強化である。大量保有報告制度違反を見逃さないこと。共同保有の実態を透明化すること。虚偽説明を処分すること。市場操作を厳しく取り締まること。買収ファンドとの不透明な合意を開示させること。利益相反を監視すること。証券取引等監視委員会の体制を強化すること。
ロイターは、自民党がアクティビスト投資家による開示ルール違反への監督強化や、証券監視当局への資源投入を検討していると報じている。この方向は理解できる。
市場の公正性を守るために、不透明な行為や違法行為を取り締まることは必要である。しかし、それは株主提案権を5%へ引き上げることとは別である。臨時株主総会請求権を重くすることとも別である。業務執行という広い概念で、資本配分や政策保有株式に関する提案まで排除することとも別である。
違法行為の規制と、正当な株主権の制限を混同してはならない。
制度設計上の代替案
制度設計として必要なのは、入口の一律制限ではない。
第一に、開示違反への執行強化である。大量保有報告制度、共同保有、実質的な協調行動について、実態に即した監視を行うべきである。
第二に、株主提案の透明性を高めることである。提案者の保有状況、提案目的、他の投資家や買収ファンドとの関係、利益相反の有無について、必要な範囲で開示を求めるべきである。
第三に、濫用的な提案と正当な提案を分ける基準を整えることである。会社の目的と無関係な提案、明らかに嫌がらせ的な提案、同一内容の反復提案については、適切な制限を設ければよい。
第四に、一定の賛成率を得た株主提案への会社側の応答を強化することである。可決されなくても、20%、25%、30%の賛成を得た提案には、取締役会が対応方針を説明すべきである。
第五に、支配株主が関与する取引では、少数株主保護を強化することである。マジョリティ・オブ・マイノリティ、特別委員会の独立性、価格交渉過程の開示、フェアネス・オピニオンの実質性を重視すべきである。
これらは、アクティビストを優遇する制度ではない。市場の透明性を高め、少数株主を保護し、企業価値を高める制度である。
結論 5%要件は、強者ではなく中間層を縛る
5%要件は、巨大ファンド対策のように見える。しかし、実際には、中小投資家や少数株主の権利を狭める可能性が高い。
巨大ファンドは対応できる。資金力がある。専門家がいる。会社と直接交渉できる。他の機関投資家に働きかけられる。
一方で、中小投資家はどうか。個人株主はどうか。独立系運用会社はどうか。会社に疑問を持つ長期株主はどうか。
彼らにとって、5%は極めて高い壁である。300個要件がなくなれば、少数株主が正式に会社へ提案する入口は狭まる。臨時株主総会の要件が重くなれば、重大な局面で取締役会に説明を迫ることも難しくなる。
その結果、誰が得をするのか。
現経営陣である。支配株主である。親会社である。安定株主である。政策保有株式を抱える企業である。
そして、誰が損をするのか。少数株主である。個人株主である。中小の機関投資家である。独立系運用会社である。日本市場に資金を投じる国内外の投資家である。Capital Research Labとしての結論は明確である。
5%要件は、強者を縛る制度ではない。むしろ、中間層の投資家を縛り、少数株主の声を弱める制度である。
企業価値を高めるのは、株主の沈黙ではない。
経営者の説明責任である。取締役会の検証能力である。資本配分の透明性である。少数株主保護である。市場からの規律である。問うべきは、ただ一つである。
5%要件は、誰を守るのか。巨大ファンドを止めるのか。それとも、少数株主を黙らせるのか。
制度の本質は、その答えに表れている。
【関連URL・参考資料】
・Reuters「Japan to tighten rules for shareholder proposals amid pushback against activism」
・The Japan Times「Curb on shareholder rights will hurt retail investors not activists, says Oasis」
・会社法 第303条「株主提案権」
・会社法 第297条「株主による招集の請求」
・法務省「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」
・Wikipedia「株主提案権」
会社に意見を言えるのは「4億円持つ人」だけ?株主提案権の制限に反対します