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【小林ふみあき議員に捧げる批判】株主の権利は、誰のために制限されるのか 自民党「成長志向型ガバナンス」を検証する全20回 【第20回】株主権なきガバナンスに、資本市場の成長はない 経営者保護型ガバナンスが日本株の再評価を止める

20回にわたり、自民党の「成長志向型ガバナンス」を検証してきた。最終回で問うべきことは、一つである。株主の権利を制限して、本当に日本企業は成長するのか。Capital Research Labとしての答えは明確である。株主権なきガバナンスに、資本市場の成長はない。

企業価値向上に必要なのは、経営者にとって都合のよい静けさではない。必要なのは、資本コストを意識した経営である。取締役会の説明責任である。少数株主保護である。政策保有株式の縮減である。非公開化取引の公正性である。市場に対する透明性である。そして、株主が必要なときに声を上げられる制度である。

この連載で見てきた問題の核心は、アクティビストの是非ではない。問題の核心は、株主からの問いを「過度な干渉」と呼び、経営者に不都合な制度を弱めようとする発想である。

第1回から第19回までで見えてきたもの

本連載では、株主提案権、臨時株主総会請求権、政策保有株式、株式持ち合い、TOB、非公開化、少数株主保護、アクティビスト市場、海外投資家の評価、そして本当に必要な規制のあり方を検証してきた。そこで一貫して見えてきたのは、次の構造である。

株主権を強くすれば、経営者は説明を求められる。株主権を弱くすれば、経営者は説明を避けやすくなる。株主提案が出れば、資本配分が問われる。株主提案を重くすれば、資本配分への問いは出にくくなる。臨時株主総会を請求できれば、重大な経営問題を株主が可視化できる。請求要件を重くすれば、経営陣は次の定時総会まで時間を稼ぎやすくなる。

つまり、株主権制限とは、単なる手続論ではない。それは、会社と株主の交渉力をどちらへ傾けるかという制度設計である。

受益者は誰だったのか

第16回で確認したように、制度改革を見るときは、理念より受益者を見なければならない。株主権を弱めて得をするのは誰か。

現経営陣である。創業家である。支配株主である。親会社である。安定株主である。政策保有株式を温存したい企業である。会社側に近い大株主である。

一方で、交渉力を失うのは誰か。少数株主である。個人株主である。中小の機関投資家である。独立系運用会社である。会社に疑問を持つ長期株主である。日本市場に資金を投じる国内外の投資家である。

この構造を見れば、「成長志向型ガバナンス」という名称の危うさが分かる。成長を掲げながら、実際には経営者の説明責任を軽くする。長期投資を掲げながら、株主の異議申し立てを弱める。会社のためと言いながら、少数株主の権利を狭める。

そのような制度は、成長志向ではない。経営者保護型ガバナンスである。

株主提案の増加は、異常ではなく市場規律の回復である

近年、日本企業への株主提案は増えている。ロイターは、2026年の株主総会シーズンに、日本企業がアクティビストから過去最多規模の提案を受けたと報じている。これを「異常事態」と見るべきだろうか。

そうではない。むしろ、日本企業に改善余地があるから提案が出ている。資本効率が低い。政策保有株式が多い。取締役会の独立性が弱い。低PBRが放置されている。非中核事業が温存されている。親子上場や支配株主取引に利益相反がある。非公開化価格の公正性に疑問がある。こうした問題があるから、株主提案が増えている。

もちろん、すべての株主提案が正しいわけではない。短期的すぎる提案もある。会社の実情を十分に理解していない提案もある。濫用的な提案もあり得る。

しかし、その場合は、会社が反論すればよい。取締役会が説明すればよい。他の株主が賛否を判断すればよい。株主総会とは、本来そのための場である。入口を狭めて、提案そのものを出しにくくする必要はない。

東証改革と株主権制限は、同時に進められない

東京証券取引所は、上場会社に対し、「資本コストや株価を意識した経営」の実現を求めてきた。2026年4月には、この要請のアップデートも公表されている。

これは、日本市場にとって重要な改革である。企業は、資本を預かっている。資本コストを上回る経営をしなければならない。市場から低く評価されているなら、その理由を分析しなければならない。取締役会は、資本配分について説明しなければならない。投資家との対話を避けてはならない。これが東証改革の基本線である。

しかし、ここで株主提案権や臨時株主総会請求権を重くすれば、何が起きるか。資本配分を問う提案が出しにくくなる。政策保有株式を問う提案が出しにくくなる。取締役会の責任を問う提案が出しにくくなる。少数株主保護を求める声が届きにくくなる。

これは、東証改革と矛盾する。一方では「資本コストを意識せよ」と言う。他方では「資本配分を問う株主の制度的手段を重くする」。一方では「投資家と対話せよ」と言う。他方では「投資家が正式に問いを出す入口を狭める」。

このような制度設計に一貫性はない。海外投資家が見るのは、まさにこの一貫性である。

海外資本は、制度リスクを価格に織り込む

第18回で確認したように、海外資本は日本市場の制度リスクを価格に織り込む。日本が本当に市場改革を進めるなら、海外資本はその変化を評価する。

低PBRの是正。政策保有株式の縮減。資本効率の改善。取締役会の説明責任。少数株主保護。投資家との対話。

これらが進めば、日本市場の評価は高まり得る。しかし、株主権制限によって、経営者に不都合な声が弱められるなら、話は別である。海外資本は、それを改革後退として見る可能性がある。

少数株主保護が弱い市場。経営者保護に傾く市場。政策保有株式を問う声が届きにくい市場。TOB価格や非公開化の公正性を問う力が弱い市場。取締役会への規律が弱い市場。

こうした市場には、リスクプレミアムが乗る。企業価値評価は下がる。資本コストは上がる。市場は、制度の矛盾を必ず価格に反映する。

本当に必要なアクティビスト規制とは何だったのか

第19回で見たように、本当に必要なアクティビスト規制は、株主権の入口制限ではない。必要なのは、透明性の強化である。必要なのは、執行の強化である。必要なのは、取引公正性の強化である。

大量保有報告制度違反を見逃さない。実質的な共同保有を透明化する。買収ファンドとの不透明な合意を開示させる。虚偽説明や市場操作を摘発する。非公開化取引における少数株主保護を強化する。特別委員会の独立性を高める。価格交渉過程を開示する。フェアネス・オピニオンを形式ではなく実質で機能させる。マジョリティ・オブ・マイノリティを重視する。

これらは、資本市場にとって必要な規制である。しかし、どれも株主提案権の一律制限を意味しない。臨時株主総会請求権の引き上げを意味しない。業務執行という広い概念で、資本配分に関する提案を排除することを意味しない。

規制すべきは、不透明な行為である。弱めてはならないのは、市場規律である。

5%要件は、強者ではなく中間層を縛る

第17回で検証したように、5%要件は巨大ファンド対策のように見える。しかし、実際には中小の投資家や少数株主を締め出す可能性が高い。

巨大ファンドには資金力がある。弁護士もいる。投資銀行も使える。PR会社も使える。会社と直接交渉できる。他の機関投資家にも働きかけられる。

一方で、個人株主や中小の機関投資家は、5%という壁を越えることが難しい。つまり、5%要件は、最も強い投資家を止める制度ではない。むしろ、資金力は限られているが、制度上の権利を使って会社に問いを出そうとする中間層の株主を縛る制度である。

これは、株主民主主義の裾野を狭める。資本市場の情報生産を弱める。少数株主保護を後退させる。そして、経営者にとって都合のよい株主構造を温存する。

政策保有株式を問えない市場に、資本効率はない

日本市場の重要課題の一つは、政策保有株式である。政策保有株式は、資本配分の問題である。同時に、議決権構造の問題でもある。

政策保有株式を持つ企業同士が、互いに会社側議案を支える。取締役選任に賛成する。株主提案には反対する。経営者に不都合な議案を通さない。こうした構造は、経営者への市場規律を弱めてきた。

だからこそ、政策保有株式の縮減は、東証改革とも海外投資家の期待とも密接に関係する。しかし、株主提案権が重くなれば、政策保有株式を問う提案は出しにくくなる。業務執行に関する提案を広く制限すれば、資本配分に関する提案まで排除される可能性がある。

それでは、政策保有株式を温存したい企業にとって都合がよいだけである。資本効率を高めたいなら、政策保有株式を問う株主の声は必要である。その声を弱めておいて、資本効率改善を語ることはできない。

非公開化取引で問われるのは、少数株主の退出価格である

第14回では、豊田自動織機の非公開化をめぐる攻防を取り上げた。非公開化取引では、TOB価格が単なる売買価格ではない。それは、少数株主の退出価格である。

支配株主や買収者側が提示した価格で、少数株主が市場から退出させられる。だからこそ、価格の公正性、交渉過程、特別委員会の独立性、少数株主保護が重要になる。

ここで物言う株主の声を弱めれば、誰が価格の公正性を問うのか。誰が交渉過程を問うのか。誰が少数株主の利益を可視化するのか。

会社側に近い安定株主が多い市場では、少数株主の声はもともと弱い。だからこそ、株主権が重要である。非公開化取引が増える時代に、株主権を弱めることは、少数株主保護を後退させる。

静かな株主総会は、良い株主総会ではない

株主権を制限すれば、株主総会は静かになるかもしれない。株主提案は減るかもしれない。反対票は目立たなくなるかもしれない。臨時株主総会の請求は困難になるかもしれない。

しかし、静かな株主総会が、良い株主総会とは限らない。何も問われない経営者が、良い経営者とは限らない。反対票が少ない取締役会が、強い取締役会とは限らない。

株主総会は、会社側議案を承認する儀式ではない。資本の使い方を問う場である。取締役会の説明責任を確認する場である。少数株主の声を可視化する場である。経営者に市場規律を及ぼす場である。

静けさは、統治の成功ではない。沈黙は、信任ではない。

「長期成長」の名で、説明責任から逃げるな

株主権制限は、しばしば長期成長の名で正当化される。アクティビストが株主還元を求めすぎる。企業が研究開発や人的資本投資をしにくくなる。だから、短期的な株主圧力を抑える必要がある。

この問題意識には、一部合理性がある。企業が短期還元だけを優先すれば、長期競争力を失う可能性はある。しかし、長期成長のために必要なのは、株主の沈黙ではない。経営者の説明である。

どこに投資するのか。いくら投資するのか。期待リターンは何か。資本コストを上回るのか。検証時期はいつか。撤退基準は何か。役員報酬や経営責任とどう連動するのか。

これを説明できるなら、株主は判断できる。説明できない成長投資は、単なる先送りである。不採算事業の温存も、長期戦略と呼べる。過剰な現預金も、将来への備えと呼べる。政策保有株式の維持も、取引関係のためと呼べる。だからこそ、株主の問いが必要である。

会社法制の見直しは、経営者保護ではなく市場インフラ整備であるべきだ

法務省は2026年3月18日、「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」を取りまとめている。会社法は、資本市場の基礎インフラである。

株主提案権。株主総会。議決権行使。実質株主確認。少数株主保護。会社と株主の対話。

これらをどう設計するかによって、日本市場の評価は変わる。会社法制の見直しが、企業と株主の建設的対話を促す方向であれば、市場の信頼は高まる。しかし、会社側の負担軽減を理由に、株主提案権を狭める方向へ傾けば、市場の信頼は下がる。

制度改革の目的は、株主総会を静かにすることではない。経営者に不都合な提案を減らすことでもない。資本を預かる会社が、株主に対して説明責任を果たす構造を強めることである。

Capital Research Labとしての結論

Capital Research Labとして、この全20回の結論は明確である。株主権は、資本市場のインフラである。

道路や港湾や電力網が経済活動を支えるように、株主権は資本市場の信頼を支える。株主提案権があるから、株主は資本配分を問える。臨時株主総会請求権があるから、重大な経営問題を可視化できる。議決権行使があるから、取締役会に信任と不信任を示せる。反対票があるから、経営者は市場の評価を無視できない。少数株主保護があるから、投資家は安心して資本を入れられる。

これらを弱めれば、経営者は楽になる。しかし、経営者が楽な市場に、成長はない。

あるのは、説明責任の後退である。あるのは、政策保有株式の温存である。あるのは、少数株主保護の低下である。あるのは、海外資本から見た制度リスクの上昇である。あるのは、日本株の再評価を止めるリスクである。

結論 株主権なきガバナンスに、資本市場の成長はない

自民党の「成長志向型ガバナンス」が、本当に成長を目指すなら、進むべき方向は明確である。

株主提案権を弱めることではない。臨時株主総会請求権を重くすることではない。業務執行という広い言葉で、資本配分に関する提案を排除することではない。

必要なのは、透明性の強化である。大量保有報告制度違反の摘発である。実質的な共同保有の開示である。買収ファンドとの不透明な合意の開示である。非公開化取引における少数株主保護である。政策保有株式の合理性検証である。取締役会の説明責任である。投資家との対話である。

企業価値を高めるのは、沈黙する株主ではない。説明責任を果たす経営者である。機能する取締役会である。透明な市場である。少数株主を守る制度である。市場が情報を価格に織り込める仕組みである。

この全20回で問うてきたのは、単にアクティビストを規制すべきかどうかではない。日本市場を、経営者保護型の市場に戻すのか。それとも、市場規律のある資本市場へ進めるのか。この選択である。

株主の権利を制限する国に、真のガバナンス改革はない。株主権なきガバナンスに、資本市場の成長はない。そして、経営者保護型ガバナンスが続く限り、日本株の再評価は、どこかで必ず止まる。

【 関連URL・参考資料】

Reuters「Japanese firms field record proposals from activists at this year's shareholder meetings」
Reuters「Japan's ruling party plans tighter oversight of disclosures by activist investors」
Reuters「Japan to tighten rules for shareholder proposals amid pushback against activism」
日本取引所グループ「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」
法務省「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」
Wikipedia「株主提案権」

会社に意見を言えるのは「4億円持つ人」だけ?株主提案権の制限に反対します