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【小林ふみあき議員に捧げる批判】株主の権利は、誰のために制限されるのか 自民党「成長志向型ガバナンス」を検証する全20回 【第12回】政策保有株式は誰を守っているのか

資本配分、議決権構造、経営者保護の三重問題


政策保有株式は、本当に企業価値を高めているのか。それとも、経営者を市場規律から守るための構造になっているのか。
この問いは、日本企業のコーポレートガバナンスを考えるうえで避けて通れない。
前回、第11回では、日本企業を長く支配してきた「物言わぬ株主」の構造を取り上げた。

株式持ち合い。安定株主。メインバンク。取引先企業。グループ会社。親会社。政策保有株式。

これらは、日本企業に安定をもたらした一方で、経営者に対する市場規律を弱めた。

第12回では、その中核にある政策保有株式を取り上げる。
政策保有株式は、単なる保有資産ではない。資本配分の問題であり、議決権構造の問題であり、経営者保護の問題である。

自民党の「成長志向型コーポレートガバナンス改革」が、本当に企業価値向上を目指すなら、物言う株主を規制する前に、政策保有株式が日本企業の資本効率と市場規律をどう歪めてきたかを検証すべきである。 

 政策保有株式とは何か

政策保有株式とは、投資収益を主目的とする純投資ではなく、取引関係の維持、企業間関係の強化、業務提携、金融機関との関係維持、安定株主づくりなどを目的として保有される株式である。

会社側は、政策保有株式について次のように説明する。
取引先との長期的関係を維持する。企業間の信頼関係を深める。安定的な事業運営に資する。敵対的買収への防衛になる。中長期的な企業価値向上につながる。もちろん、政策保有株式のすべてが無意味だとは言えない。資本業務提携として合理性がある場合もある。共同開発や長期供給契約、技術提携など、事業価値に結びつく場合もある。

しかし、合理性があるなら説明できるはずである。
なぜ保有するのか。どの事業に貢献しているのか。どの程度の便益があるのか。資本コストを上回るのか。保有しない場合と比べて企業価値を高めているのか。取締役会は毎年検証しているのか。

これを説明できない政策保有株式は、企業価値向上のための資産ではない。経営者の裁量を温存するための資本固定である。

 第一の問題は資本配分である

政策保有株式の第一の問題は、資本配分である。会社が株式を保有するということは、その株式に資本が固定されているということである。その資本は、本来なら別の用途に使うことができた。
研究開発。人的資本投資。設備投資。知的財産投資。新規事業。事業ポートフォリオの再構築。負債返済。自社株買い。配当。
政策保有株式を持ち続けるということは、これらの選択肢と比較したうえで、なお保有が合理的であると説明できなければならない。

資本市場が問うているのは、単に「売れ」ということではない。その資本が最も価値を生む場所に置かれているのか、という問いである。

東京証券取引所は、2023年3月からプライム市場・スタンダード市場の上場会社に対して「資本コストや株価を意識した経営」を求めている。東証は、上場会社が資本コストや資本収益性を把握し、市場評価を分析し、改善に向けた計画を開示し、投資家との対話を通じて継続的に取り組むことを求めている。

さらに東証は2026年4月のアップデートで、「経営資源の適切な配分」を中心とした投資家の期待や取組みのポイントを取りまとめたと公表している。

この文脈で見れば、政策保有株式は当然に検証対象となる。
資本コストを下回る政策保有株式を持ち続けることは、企業価値向上と矛盾する可能性がある。

 第二の問題は議決権構造である

 

政策保有株式の第二の問題は、議決権構造である。政策保有株式を持つ企業同士が、株主総会で互いに会社側議案へ賛成する。

この構造が広がれば、経営者に対する外部規律は弱まる。
取締役選任議案が通る。役員報酬議案が通る。資本政策が通る。株主提案は否決される。反対票は大きくなりにくい。
これでは、株主総会が市場規律の場として機能しにくい。

会社側に近い株主が議決権を握れば、少数株主の声は届きにくくなる。これは、資本効率だけの問題ではない。企業統治の問題である。政策保有株式は、貸借対照表上の資産であると同時に、株主総会における票でもある。

資本を固定するだけでなく、議決権構造を固定する。ここに政策保有株式の深刻さがある。

 第三の問題は経営者保護である

政策保有株式の第三の問題は、経営者保護である。政策保有株式が多い会社では、会社側に近い安定株主が増える。
その結果、経営者は株主からの圧力を受けにくくなる。
資本効率を問われにくい。政策保有株式の合理性を問われにくい。不採算事業の撤退を迫られにくい。取締役会の責任を問われにくい。親子上場や利益相反を問われにくい。

つまり、政策保有株式は、企業価値を守るためだけではなく、経営者の安定を守るために機能してきた面がある。
会社側は「取引関係の維持」と言う。「中長期的な企業価値向上」と言う。「安定的な経営基盤」と言う。

しかし、その結果として経営者が責任を問われにくくなっているなら、市場は疑うべきである。

政策保有株式は、会社を守っているのか。それとも、経営者を守っているのか。この問いを曖昧にしてはならない。

 コーポレートガバナンス・コードとの関係

日本のコーポレートガバナンス改革では、政策保有株式は重要な論点であり続けてきた。

金融庁は、日本のコーポレートガバナンス改革について、スチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コード、そして「形式から実質へ」という改革の流れの中で、中長期的な企業価値向上を目指してきたと説明している。

2026年7月には、金融庁と東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コードの2026年改訂を確定したことも公表されている。
政策保有株式について重要なのは、保有方針を開示し、保有の合理性を検証し、資本コストや便益・リスクとの関係を説明することである。

「昔から持っている」「取引関係のため」「長期的関係のため」これだけでは不十分である。
政策保有株式を持ち続けるなら、取締役会は説明しなければならない。

資本コストに見合うのか。株主共同の利益に資するのか。企業価値を高めているのか。議決権行使は適切なのか。

これを説明できない政策保有株式は、縮減・売却の対象となるべきである。

 「長期的関係」は検証を免れない

政策保有株式は、しばしば「長期的関係」という言葉で正当化される。

取引先との長期的関係。金融機関との信頼関係。企業グループ内の結びつき。安定的な事業基盤。 
これらは、一見すると合理的に聞こえる。

しかし、Capital Research Labとして注目すべきは、その関係が企業価値にどう貢献しているかである。
長期的関係は、検証を免れる理由にはならない。

むしろ、長期に資本を固定するからこそ、より厳密な検証が必要である。

その関係は売上に貢献しているのか。利益率を高めているのか。供給網の安定につながっているのか。技術開発に寄与しているのか。資本コストを上回る便益があるのか。株式を保有しなくても関係は維持できないのか。

 これを説明できないなら、「長期的関係」は経営者の防御語にすぎない。

 「売れば取引に悪影響が出る」は本当か

 会社側は、政策保有株式の売却について、しばしば取引関係への悪影響を理由にする。
 売れば取引先との関係が悪化する。信頼関係を損なう。長期的な協力関係に支障が出る。

 しかし、この説明も検証が必要である。

 本当に、株式を持っていなければ維持できない取引なのか。品質、価格、技術、納期、サービス、信用ではなく、株式保有によって維持される取引なのか。もしそうなら、その取引関係は資本市場から見て健全なのか。企業間取引は、本来、提供価値によって維持されるべきである。

株式を持っているから取引が続くという関係は、資本効率だけでなく、競争環境の観点からも疑問が残る。政策保有株式を売ると取引が壊れるという説明は、経営者に都合よく使われていないか。

ここを問う必要がある。

アクティビストが政策保有株式を問う理由

アクティビストや機関投資家が政策保有株式の縮減を求めるのは、単なる短期主義ではない。
資本が有効に使われているかを問うているのである。政策保有株式は資本を固定する。議決権構造を固定する。経営者の安定を固定する。

だから、株主は問う。

なぜ持つのか。資本コストを上回るのか。保有しない場合より企業価値を高めているのか。経営者保護に使われていないか。少数株主利益を阻害していないか。

報道では、アクティビストが日本企業に対して、株主還元の拡大、政策保有株式の解消、資本効率改善、ガバナンス改革を求めてきたことが紹介されている。

この問いを「過度な干渉」として片付けるなら、それは経営者の説明責任を免除することになる。

 株主権制限は政策保有株式を温存する

ここで自民党の株主権制限論と政策保有株式の関係を考える必要がある。

仮に株主提案権が厳格化される。臨時株主総会の招集請求権が重くなる。 業務執行に関する株主提案が広く制限される。

そのとき、政策保有株式の縮減を求める株主の声はどうなるか。
会社側は、「業務執行に関する事項だ」と言うかもしれない。「取締役会の裁量だ」と言うかもしれない。「長期的取引関係に関わる」と言うかもしれない。そして、株主総会で議論される前に排除される可能性がある。

そうなれば、得をするのは誰か。

政策保有株式を抱え続けたい会社である。安定株主構造を維持したい経営者である。資本効率を問われたくない取締役会である。

これは、成長志向ではない。市場規律の後退である。

 政策保有株式は経営者の保険ではない

政策保有株式は、経営者の保険ではない。取引先との関係を理由に、資本を眠らせてよいわけではない。安定株主を確保するために、株主総会の緊張感を失わせてよいわけではない。敵対的買収を防ぐために、少数株主利益を後回しにしてよいわけではない。経営者の地位を安定させるために、資本効率を犠牲にしてよいわけではない。会社の資本は経営者のものではない。

株主から預かった資本であり、企業価値を高めるために使うべき資本である。政策保有株式を持つなら、経営者は説明しなければならない。

説明できないなら売却すべきである。それが資本市場の基本である。

 企業価値を高める政策保有株式だけが残るべきである

 結論は単純である。

すべての政策保有株式を機械的に売却せよ、という話ではない。本当に企業価値を高める政策保有株式は残せばよい。

資本業務提携として合理性がある。共同開発に不可欠である。供給網の安定に明確に寄与している。 保有に伴う便益が資本コストを上回っている。取締役会が定期的に検証している。

株主に説明できる。こうした政策保有株式は、残す余地がある。しかし、説明できない政策保有株式は売却すべきである。

「昔から持っている」「取引関係のため」「安定経営のため」「長期的関係のため」

 この程度では足りない。それは企業価値の説明ではない。経営者の都合の説明である。

 誰のための政策保有株式か

政策保有株式は誰を守っているのか。企業価値を守っているのか。従業員を守っているのか。顧客を守っているのか。少数株主を守っているのか。それとも、経営者を守っているのか。

この問いを避けてはならない。

自民党の「成長志向型ガバナンス」が本当に成長を目指すなら、物言う株主を黙らせる前に、物言わぬ株主に守られてきた政策保有株式構造を検証すべきである。

政策保有株式は、資本を固定する。議決権構造を固定する。経営者の地位を固定する。

この三重の固定化が、日本企業の市場規律を弱めてきた。必要なのは、株主の沈黙ではない。資本配分の説明責任である。

必要なのは、政策保有株式による安定ではない。企業価値を高める市場規律である。政策保有株式を問うことは、会社を壊すことではない。会社の資本を、誰のために、何のために使うのかを問い直すことである。

Capital Research Labとしての結論は明確である。説明できない政策保有株式は、経営者保護の疑いを免れない。
そして、経営者保護型の株主構造からは、持続的な成長は生まれない。

【 関連URL・参考資料】

日本取引所グループ「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」
日本取引所グループ「『資本コストや株価を意識した経営』に関する要請のアップデートについて」
日本取引所グループ「Corporate Governance Code July 2026 Revision Published」
金融庁「Finalization of the Corporate Governance Code 2026 Revision」
金融庁「コーポレートガバナンス改革への取組」
金融庁「スチュワードシップ・コード」
経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」
法務省「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」
Wikipedia「政策保有株式」
Wikipedia「株式持ち合い」
Wikipedia「株主総会」
Wikipedia「コーポレート・ガバナンス」

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